王都決戦編
第704話 動き出す黒幕
――バッシュの元を去った後、シンは即座に兵士を連れて玉座の間へと向かう。バッシュが居なくなった事はすぐに他の者に勘付かれるはずであり、その前に彼は手を打つ必要があった。
「おおっ、宰相ではないか。今日は随分と来るのが遅かったな」
「申し訳ございません、ここへ向かう途中に少々面倒事に巻き込まれましてな」
「そうか、まあ無事ならば何よりだ」
玉座の間に辿り着くと国王はいつも通りに玉座に座り、宰相が訪れると彼は何の疑いもなく話しかけてきた。そんな国王に対してシンはいつも通りに振る舞い、彼に進言を行う。
「ところで……先ほど、兵士達が妙な噂をしておりました」
「噂?どんな噂だ?」
「陛下はリノ王女の付き従うシノビという者はご存じですね。先日に和国の領地の返還を求めてきた男でございます」
「うむ、あの者がどうかしたのか?」
シノビの名前を口にすると国王はすぐに思い出し、リノの側近として働いている事は国王も知っていた。シンはそれを利用して捕まえたバッシュの件を誤魔化す事にした。
「実はあのシノビという者……私が独自に調査した所、リノ王子とただならぬ関係を築いているようでございます」
「な、何じゃと!?あの男がリノと……!?」
「証拠はございます。リノ王女が最近、女性物のネックレスを身に付ける様になりました」
「うむ、そういえば……確かにネックレスをしていたな」
これまでは王子として振舞っていたリノではあるが、王女として戻る事を決めた彼女は女性として身嗜みにも整えるように心掛け、最近では装飾品も身に付ける事が多かった。
彼女が身に付けている装飾品は自分で選んで購入した物が多いが、その中で最近に彼女が身に付けているネックレスは実はシノビが渡した物だとシンは見抜き、国王に明かす。
「リノ王女が身に付けているネックレスは和国に伝わる勾玉と呼ばれる魔除けのお守りのような道具でございます。これを持っているのは王国の中でも和国の出身者である人間だけであり、リノ王女は大切にこのネックレスを身に付けております」
「と、という事はまさかそのシノビとやらがリノに……!?」
「勿論、ネックレスを身に付けているだけでは二人が深い関係とは限りません。しかし、部下から渡された装飾品を常日頃から肌身離さず身に付けるとなると疑い深くもなります。それに銀狼騎士団の配下の王国騎士によりますと二人は仲睦まじく、お互いに想いあっているように見えるそうでございます」
「わ、儂の娘が……!!」
シンの言葉を聞いて国王は愕然とした表情を浮かべ、リノに関わる事だと国王は冷静さを失う。その事はシンもイチノの救援の一件で知り尽くしており、それを利用して彼は自分の周りをこそこそと嗅ぎまわる邪魔者を排除する事にした。
「――先ほど、そのシノビがバッシュ王子と何やら話し合う様子を見たという兵士がおります。そして現在、この二人の姿が見えなくなったそうです」
「な、何!?」
「陛下……これはあくまでも私の見解ですが、あの男は信用なりませぬ。あの男がこの国に仕えるのはかつて失われた先祖の領地を取り返すためであり、決して王国に忠誠を誓っているわけではありません。現にリノ王女に近付き、更にバッシュ王子と度々接触している様子です……ここは本人を呼び出し、その真意を問い質すべきでは?」
「おのれ、
『はっ!!』
シンの口車に国王はあっさりと騙され、その様子を見てシンは口元に笑みを浮かべる。普段は冷静沈着な国王だが、家族に関わる事になると冷静さを欠き、こんな嘘にも引っかかってしまう。
最も国王も相手が信頼する宰相の言葉でなければここまで簡単に騙される事はなかった。しかし、シンは自分を信頼する国王を利用してシノビを呼び出させる。
(……国王、貴方は人を信用し過ぎる。しかし、だからこそ貴方を国王にする事が出来た)
自分を信頼する国王に対してはシンも嘘偽りなく、彼の事を尊敬しており、信頼もしていた。しかし、国王がシンに対する信頼と、シンが国王に対する信頼は性質が異なり、シンにとって国王とは国を動かす上でのただの道具に過ぎない。
(我々こそが国を支え、守護しなければならない……貴方は十分に役目を果たされた)
国王に対して罪悪感がないわけではないが、シンは死ぬ前に最後の目的を果たした後、この国に生き残る王族はバッシュだけになる事を予測していた――
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