閑話 《スライムの生態》

――この世界におけるスライムは非常に謎が多く、判明している事は人間に害を与えない心優しい魔物である事、非常に高い擬態能力を誇り、普段は隠れて生活している事、そして水がある環境ならばどんな場所でも生きていける。


スライムは体内に水分を貯め込み、時にはそれを放出して相手に攻撃をする事も出来る。最も攻撃能力自体は低く、殺傷能力は皆無に等しい。そもそもスライムは滅多に他の生物を襲ったりなどしない。


擬態能力で姿を別の物体に変化させて過ごしているが、そもそも魔物の中でスライムを襲おうとする存在はいない。スライムの肉体は実は弾力性に優れており、魔獣種が噛みついても嚙み切れない。


身体を弾ませる事でボールのように移動を行い、時には弾力を生かして高く跳び跳ねたり、体当たりなども行える。弱点があるとすれば熱い物は苦手で特に夏場などは水を定期的に補給しないと体内の水分が蒸発して干からびて死んでしまう。


実は寿命という概念が存在せず、驚くべき事に竜種よりも長生きできる。スライムは定期的に水分さえ補給すれば死ぬ事はなく、しかも人語を理解する高い知能を誇る。最も不死身というわけではなく、体内の水分が全て蒸発したら溶けて消えてなくなり、肉体の弾力性を上回る攻撃を受けたら弾けて死んでしまう。



「――これが僕の知っている限りスライムの情報だよ」

「へえっ……そうなんだ。それはよく分かったけど……どうしてプルリンはこんな風になっちゃったの?」

「プルルルッ……」

「クゥ〜ンッ……」



王都へ帰還する途中、ナイ達は川を発見して一休みする事にした。この時、プルリンはナイは謝って川の中に落としてしまうと、唐突に巨大化してしまう。現在のプルリンの大きさは元の大きさの10倍は存在し、巨大化したプルリンに皆が心配そうに見つめる。



「う〜んっ……考えられるとしたら川の水を一気に吸収した事で体内の水分が増加して体積が大きくなったとしか考えられないね」

「へえ、そうなんだ……でも、こんなに大きいと連れて行けないよ」

「ぷるぷるっ……」

「わあっ……プルリンちゃん、大きくなっても可愛いね〜」

「あ、ひんやりして気持ちいい……」

「でもこの大きさだと枕にして眠れない」

「スライムを枕扱いは可哀想ですよ……」



巨大化したプルリンを皆が取り囲み、とりあえずはどのような方法でプルリンを元の大きさに戻すのか考える。そこでアルトはナイとミイナに視線を向け、最終手段を伝えた。



「仕方ない、この方法を試すしかないか……ナイ君、ミイナ、君達の力で左右からプルリンに体当たりするんだ」

「えっ?」

「それで小さくなるの?」

「ほら、いいから早く!!全力で体当たりしないと弾かれてしまうぞ!!」



アルトの言葉にナイとミイナは半信半疑でプルリンを挟むように距離を取ると、二人は勢いよく駆け込み、プルリンの身体に体当たりを行う。



「たああっ!!」

「ていっ!!」

「ぷるしゃあああっ!?」

「キャインッ!?」



馬鹿力を誇る二人の体当たりによってプルリンは体内の大量の水を放出し、その正面に立っていたビャクは巻き込まれ、川の中に落ちてしまう。その後、今度はビャクの方が機嫌を損ねてしまい、彼を宥めるのにナイは苦労した――





――ちなみに体内の水分を吐き出した事で元に戻ったプルリンだったが、この数時間後に今度は女性陣が与えたジュースのせいで体色が変化し、新たにスライムの秘密が増える事になるとはこの時点では誰も気づかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る