第698話 解毒薬を生成するには……

――その後、白面の拠点内に存在した暗殺者は全員が捕縛され、拠点内に捕まっていた人間達も救助される。彼等は白面の暗殺者に強要され、毒薬を製造していた事も判明したが、あくまでも脅されていた場合は王国の法律では彼等は罪にはならない。


拠点内に存在しなかった白面の暗殺者は逃げられてしまうが、ナイ達が下水道に潜り込んだ時に気絶させた暗殺者と、クノが下水道に向かう際に発見した暗殺者は捕まえる事は出来た。ゴエモンの屋敷に侵入した者達は死亡し、それ以前に彼の家を見張っていた暗殺者は事前にクノが捕縛済みだった。


この街の白面の組織は事実上壊滅したといっても過言でもなく、嬉しい誤算なのは白面の幹部もここへ訪れており、捕縛に成功した事だった。しかも彼は解毒薬を所持しており、すぐにその解毒薬の分析を行う。


白面の幹部が持ち込んだ解毒薬の効果は一か月しか持たず、この薬を飲んだとしても毒の進行を抑えられるだけで完全に除去できるわけではない。しかし、解毒薬を分析すればいずれ完璧な解毒薬を作り出せる可能性も残っていた。



「――じゃあ、ゴエモンさんとヒメさんはこの街で解毒薬の生成に協力するんですか?」

「ええっ……解毒薬さえ手に入れば、あとは分析して使われている素材を見抜くだけです」

「幸いにも薬は余分に手に入った。俺が前に情報を売った医師や薬師に協力を申し込んできた。もしも協力しなければお前等の情報を売り渡すと言ったら喜んで協力してくれるそうだ」

「もう、あなた……そんな方法ばかりするから人に恨みを買うのよ」



ゴエモンとヒメは地下の拠点を利用し、解毒薬の生成に力を注ぐという。拠点に関しては現在は警備兵が管理しているが、肝心の研究に関してはこれまで通りに攫われた人間達が行う事にした。


ヒメも調合室で毒薬を生成していた研究員たちも白面から毒を仕込まれており、彼等の身体の中には未だに毒が残ったままである。この毒を完全に除去しない限りは普通の人間ようには暮らせない。しかし、解毒薬が手に入ったので希望は残っていた。



「どんな手を使っても俺はこいつを救う……お前達には色々と迷惑をかけた。もしもお前達に役立ちそうな情報が入ったら連絡を送る」

「それは有難いね、この街の白面を捕まえたとはいえ、まだまだ謎は多いんだ。情報屋が味方になってくれたのは有難いよ」

「何だかんだありましたが、白狼騎士団の初めての功績ですね!!」

「……これ、私達の功績なの?いつも通りにナイが大活躍して私達は大して活躍していない気がする」

「い、良いんですよ!!私達だって白面の暗殺者を捕まえたんですから!!」

「はははっ……まあ、その辺は僕も父上に上手く説明しておくよ」



今回の一件は白狼騎士団が地元の協力者と共に白面の組織を捕まえた事にして連絡を送る。どうやら既にナイは白面の組織に危険人物として認識されており、そのために今回の一件はナイの活躍を表沙汰にしない様に配慮される。


既に目を付けられている状態なのに更にナイがクーノに滞在していた白面を壊滅させたと知られれば白面の組織も黙ってはいないだろう。本格的にナイを始末するために刺客を送りつけるかもしれず、手遅れかもしれないが今回の一件はナイは関与していないように伝える事にした。



「う〜ん……ナイ君がこんなに頑張ったのに、僕達の功績なるなんてなんか複雑だな……」

「何を言ってるんだ、君達だって十分に役に立ったよ。僕に至っては何もしてないんだよ?」

「ううっ……それを言えば私達もそうですね」

「面目ない」

「まあまあ……アルト達もいなければ警備兵の人たちもここまで協力してくれなかったんだから」



リーナは黄金級冒険者として今回の白面の捕縛に協力したという名目で評価が上がるだろうが、彼女からすればナイが一番頑張っていたのに評価も報酬も与えられない事に不満を抱く。


アルト達の方は警備兵を連れて拠点まで乗り込んだが、結局はナイが一人で白面の暗殺者全員を倒していたので活躍の機会もなかった。しかし、当のナイ本人は功績など気にしておらず、それよりも解毒薬の生成のために王都へ戻る必要があった。



「早く王都へ戻ってこの解毒薬をイリアさんやイシさんに渡そう。あの二人ならきっと完璧な解毒薬を作ってくれるはずだよ」

「王城に勤務する医師と、例の魔導士か……頼む、どうにか解毒薬を作ってくれ」

「任せてくれ、しっかりと僕の方から二人に頼むよ」



ゴエモンの言葉にアルトは必ず二人に解毒薬の製作の協力を取り次ぐ事を約束し、こうしてナイ達はクーノから王都へ戻るために出発する。



「ビャク、王都まで全速力だ!!」

「ウォンッ!!」



狼車に乗り込んだナイ達はクーノの警備兵やゴエモンとヒメに見送られ、王都へと出発した――

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