第699話 バッシュの決意

――ナイ達がクーノを出発した日の同時刻、王都ではバッシュが各騎士団の団長と副団長を呼び出す。彼が全員を呼び集めた理由、それはとある人物に反逆の容疑が掛けられており、その人物を捕獲するために話し合いを行う。



「そ、そんな馬鹿な……本当にあの御方が?」

「ど、どうして……」

「信じられないのも無理はない。だが、これは俺とリノが調査した結果だ」

「…………」



バッシュの言葉にリノは言葉こそ口にはしなかったが黙って頷き、彼女の隣に立つシノビも険しい表情を浮かべていた。3人の反応を見てもテン達は信じられない表情を浮かべ、それほど反逆者の疑いが掛けられている人間が信用されていた事を意味する。


しかし、バッシュとリノが調べ上げた人物はこれまでに起きた事件にも関与している可能性があり、特にイチノでの一件以降にその人物は怪しい動きを取っていた。その事を踏まえた上でバッシュは彼こそがこの国の反逆者だと判断した。



「近いうちに陛下に報告し、あの男を捕える……長年の間、この国を支え続けてきた男だとしても俺は許す事は出来ない」

「兄上……」

「そんな顔をするなリノ……お前は気にする必要はない、今回の出来事はお前のせいではない」



リノに対してバッシュは兄として彼女を気遣い、隣に立つシノビに視線を向けた。シノビはその視線に対して頷き、バッシュはもしも自分の身に何かあれば彼にリノを任せる事を事前に伝えている。



「シノビ、これはとしての命令だ。何があろうと……その娘を守れ」

「御意……我が命に代えてもその命を果たしましょう」

「シ、シノビ……」



シノビの言葉にリノは頬を赤らめ、その言葉にバッシュは安心したように笑みを浮かべると、改めて他の者達に顔を向ける。これから彼は国王の元へ向かい、この報告を伝える事にした。



「今から俺は父上に報告に向かう。もしも俺が父上の反感を買い、捕まる事になったとしても……あの男だけは野放しにしてはならん」

「承知しましたわ!!」

「王子の命令であれば……信じます」

「……あたしは信じられないけどね、まさかあの人がそんな事を……」



ドリスとリンはバッシュの命令に納得するが、テンだけは彼の言葉を聞いても信じ切れない。しかし、バッシュはもう覚悟を固めており、国王の元へ向かう。


部屋を出る際にリノはバッシュの後ろ姿を見て不意にこのまま彼を行かせては良いのかと思ったが、どうしても止める事が出来なかった。去り際にバッシュは会議室の全員に振り返り、告げた。



「……もしも俺の身に何かあった時はアルトに伝えてくれ。この国を任せられるのはお前だけだとな」

「えっ……王子?」

「え、縁起でもない事を言わないでくださいっ!!」

「そうだよ、アルト王子に国を任せたら……とんでもない事になりそうだね」

「そ、それは流石にアルトに失礼では?」

「冗談だ……あいつに国を背負う事は出来ない。いや、国王など似合わないからな」



バッシュは最後に笑顔を浮かべると、彼は玉座の間へ向かう。ドリスも同行したい所だが、彼女にはバッシュから与えられた役割があり、他の者達も動き出す――






――玉座の間へ向かう途中、バッシュは玉座の間に繋がる扉の前である人物を遭遇する。その人物は大勢の兵士を引き連れ、まるでバッシュが国王と会う事を拒むように立ちふさがる。その人物の光景を見てバッシュは険しい表情を浮かべ、問い質す。



「何のつもりだ……宰相?」

「これはバッシュ王子様……こんな場所まで訪れるとは何用ですかな?」

「こんな場所とは大した言い草だな。俺は父上に会いに来ただけだぞ」

「それは残念ですな、国王様は今は誰ともお会いにならないそうです」



バッシュの言葉を聞いても宰相は退く気はなく、兵士達は立ちふさがる。この玉座の間の向こう側に国王が居ると確信したバッシュは宰相にと判断し、舌打ちを行う。



「やはり、貴様だったのか……この国を陥れようとする反逆者め!!」

「反逆者?それは違いますな……我が一族はこの国を陰から支えるために生き続けた。それを反逆呼ばわりなどいくら王子と言えども言葉が過ぎるのでは?」

「何だと?」



宰相の言い分にバッシュは呆気に取られるが、そんな彼に対して宰相は告げる。



「王子、これは貴方のため……いや、この国のためなのです」

「シン!!貴様……!!」

「捕えよ!!」



宰相の言葉を聞いた兵士達は動き出し、バッシュを拘束するために彼を取り囲む。その兵士達の行動を予測していた様にバッシュは睨みつける――

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