第712話 双魔剣
「――はあっ、はあっ、くそっ……こいつら、どれだけいるんだ!!」
「切りがありませんね……」
「だが、大分倒したはずだぞ……!!」
場所を代わって一般区の方ではガロ、エルマ、ゴンザレスの3人はお互いに背中を預け、白面の集団と向かい合う。先ほどから白面の暗殺者を見つけ次第に倒してきた3人だったが、想像以上に敵の数が多く、いくら倒しても新手が出現した。
白面の一人一人が手練れの暗殺者であり、対人戦に特化した戦法を扱う。魔物との戦闘とは違い、相手は人を倒す事に特化した戦い方をしてくるため、一瞬でも油断すれば命はない。
「くそっ……しつこいんだよ、てめえらっ!!」
『シャアッ!!』
ガロは二つの魔剣を振りかざし、白面の暗殺者集団に立ち向かう。それに慌てゴンザレスも動き、エルマは魔弓術で二人の援護を行いながら自分も狙われない様に忙しなく動き続ける。
マホから託された炎華と氷華を利用してガロは戦闘を行うが、この二つの魔剣の能力は使用していない。マホとの約束を守る意味あるが、ガロ自身もこの二つの魔剣を手にした時から違和感を感じ、能力を使用する事に踏み止まる。
(こいつはやべえっ……何がやべえのか分からないが、とにかく使ったら駄目だ)
魔剣を手にした時からガロは2つの魔剣の力を感じ取り、獣人族の優れた生存本能がこの二つの魔剣を使用する事を恐れていた。そのためにガロは魔剣の能力を使用せずに戦うが、ここで異変が思わぬ事態が発生した。
「ぐおっ!?」
「ゴンザレス!?」
「なっ!?おい、何をしてやがる!!」
ゴンザレスが唐突に地面に膝を着き、その光景を見てガロとエルマは驚くと、いつの間にか彼の足元に白煙が発生していた。この白煙はただの目眩ましではなく、毒の成分も僅かに含まれており、常人ならばこれを吸い上げれば身体が痺れてしまう。
毒自体はそれほど強くはないが、戦闘の際中に身体が痺れてはまともに戦う事も出来ず、ゴンザレスは身体が痺れて上手く動けない肉体に混乱する。その間にも暗殺者は迫り、彼に向けて武器を構えた。
「シャアアッ!!」
「ぐおっ!?」
「シャウッ!!」
「がはぁっ!?」
「ゴンザレス!?くそがっ!!」
「待ってください、こんな煙……吹き飛ばします!!」
エルマは魔弓術を利用して風属性の魔力が含まれた矢を放ち、煙を吹き飛ばす。その隙にガロはゴンザレスの元に駆けつけ、彼に攻撃を仕掛けていた暗殺者達を切り裂く。
どうにかゴンザレスを助ける事は出来たが、彼の身体はあちこち出血し、しかも身体が痺れて碌に動けない。この状態では彼の扱う「鬼人化」も発動できず、窮地に追い込まれた。
「おい、ゴンザレス!!大丈夫か!?」
「まだ動けますか!?」
「ぐっ……か、身体が言う事を聞かない」
ゴンザレスも必死に自分の身体を動かそうとするが、痺れた肉体は拳を握りしめる事も出来ず、ゴンザレスは悔し気な表情を浮かべた。そんな彼を見てガロは考え込み、両手に握りしめた自分の魔剣に視線を向ける。
(こいつの力を使うしかないのか……!!)
マホから禁じられてはいるが、ここでゴンザレスを守るために魔剣の力に頼るしかない。ガロは自分自身が強くなるためではなく、仲間を守るために彼はマホとの誓いを破る事を決意した。
意識を集中させ、ガロは両手の魔剣を発動させようと試みる。本来、魔剣を使用する場合は適正がなければ扱えず、炎華と氷華の場合は火属性と水属性という相対する属性同士の魔剣である。
この二つの魔剣を同時に扱えたのは後にも先にも王妃ジャンヌだけであり、ガロは聖属性に適性はあるが、他の属性も扱るのかは自分自身も知らない。
(頼む、力を貸してくれ……!!)
祈る様にガロは魔剣を握りしめて能力を発動しようとした瞬間、魔剣に変化が生じた。変化が起きたのは氷華であり、刃から突如凄まじい冷気が放出され、周囲に広がる。
『シャアッ……!?』
「うっ……!?」
「さ、寒いっ……!?」
「な、何だ……この魔剣、力がっ……!?」
氷華から放たれた冷気によって周囲の温度が急速的に下がり、黄金級冒険者が所有するリーナの「蒼月」よりも凄まじい冷気を放って周囲を凍り付かせていく。あまりの冷気に白面だけではなく、ゴンザレスとエルマの肉体も凍り付き始める。
ガロは慌てて魔剣を解除しようとしたが、どういうわけか魔剣が手元から離れず、強制的に彼の身体から魔力を吸収する。ガロはここでマホが魔剣の使用を禁じた理由を知り、こんな物を使えば無事で済むはずがない。
(まずい、このままだとゴンザレスもエルマ……くそがっ!!)
魔剣が手元から離れない理由はあまりの冷気にガロ自身の身体も凍り付き、手元が凍って腕が離れない事だと悟る。このままでは全滅すると思った彼に残された手段は一つしかなく、完全に凍り付く前にガロは炎華を振りかざす。
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