第711話 最強の敵

「――ゴウカ、てめえ!!本気で俺達を裏切る気か!?」

『すまんな、ガオウ……お前とはそれなりに長い付き合いだが、もう俺は我慢できんのだ』

「我慢だと……」

『そうだ……俺の目的のためにはここでお前達の敵となろう。だから、遠慮はするな!!お前も本気で掛かってこいっ!!』



ゴウカはドラゴンスレイヤーを構えると、その気迫にガオウは圧倒される。今回は組手とは異なり、ゴウカは本気で戦うつもりだと知ると、ガオウは怒りのあまりに血管が浮き上がる。



「てめえっ……人を舐めるのもたいがいにしろよ!!」

『ほうっ……大した殺気だ。やはりお前は実戦でこそ力を引き出せるな!!』

「いつまでも調子に乗ってんじゃねえぞっ!!」



完全にゴウカが敵に回った事を把握するとガオウは剣を両手の鉤爪を構え、今までにないほどの迫力を放つ。彼の殺気を感じ取ったゴウカは嬉しそうな声を上げ、二人はお互いに向き合う。


ゴウカとの組手ではガオウは一度も勝利した事は無いが、ガオウの場合はゴウカの言う通りに彼は実戦でこそ真価を発揮する。例え、相手がゴウカであろうとガオウは心の何処かで冒険者仲間である事を意識しており、本気で殺しにかかる事が出来なかった。


しかし、ゴウカ自身が裏切りを表明した以上はガオウも容赦はせず、彼を殺すために全力を尽くす。手加減して勝てる相手ではない事は承知しており、ゴウカを倒すためにガオウは策を練る。



(こいつの鎧を突破しない限りは話にもならねえっ……)



ゴウカが普段身に付けている鎧は「アダマンタイト」と呼ばれる金属で構成されており、ガオウが身に付けているミスリルよりも硬度が高く、正攻法の攻撃は通じない。


まずは鎧を破壊しない限りはどうしようも出来ず、ガオウは狙うのは兜と鎧の隙間、つまり首元だった。首元の隙間に爪を捩じり込み、止めを刺す。それ以外にガオウに勝ち目はなく、彼は動く。



(まずは攪乱させて隙を伺う!!)



ガオウは本気で戦うために「獣化」を発動させた。獣化とは人間でいうところの「強化術」と同じ状態であり、ガオウのような獣人族の場合は元となった動物の特徴が浮き出る。


狼型の獣人族であるガオウの獣化は運動能力の上昇と身軽さに磨きが掛かり、ゴウカに向けて目にも止まらぬ速度で駆け出す。その速度はナイの瞬動術をも上回り、凄まじい速さでゴウカの周囲を跳び回る。



「があああっ!!」

『ほうっ、これは……凄まじいな!!』



ゴウカの視界ではガオウがまるで何人にも分かれたように凄まじい速度で動き回り、あまりの速さに残像が出来る程であった。以前にナイとの戦闘で獣化を使っていた場合、当時のナイではどうする事も出来なかっただろう。


強化術と同様に獣化は長時間の意地は出来ず、しかも再生術を扱えない者にとっては最後の奥の手であり、ガオウもこの技を使用する時は決死の覚悟を抱かなければならない。勝負を決めるのはゴウカが動き出した時であり、ガオウはゴウカの攻撃を待つ。



『ならば俺も本気を出さねばな……ぬおおおっ!!』

「ちぃっ!?」



無造作に振り払われたゴウカの大剣に対してガオウは地面に着地すると同時に頭を伏せて回避するが、ゴウカが大剣を振り払った直後に風圧が発生し、周囲の建物の窓が割れた。


何らかの魔法剣を使用したわけでもなく、純粋な腕力のみで振り払われた大剣の風圧だけで建物の窓が割れた。その規格外の一撃にガオウは冷や汗を流し、もしもこんな攻撃を受けたら彼の命はない。



(化物がっ……だが、これで終わりだ!!)



大剣を振り払った事で隙を見せたゴウカに対して、ガオウは地面に伏せた状態から勢いよく跳び上がり、砲弾の如くゴウカの首筋に目掛けて突っ込む。


両腕に装着した鉤爪を振りかざし、ゴウカの首筋に目掛けて放つ。しかし、攻撃が当たると思われた瞬間、ゴウカは大剣を振り払った勢いを利用して更に身体を回転させ、を放つ。



『ぬううっ!!』

「があっ!?」



ゴウカの回転させた大剣の刃を確認したガオウは咄嗟に両腕を構えて受け止めるが、あまりの威力に彼の身体は派手に吹き飛び、空中にて鉤爪が砕け散って残骸が散らばり、ガオウの両腕から鮮血が舞う。


そのままガオウは地面に倒れ込み、両腕から大量の血を流しながら身体を痙攣させる。獣化の効果も同時に切れたらしく、彼は白目を剥いて気絶した。その様子を見てゴウカは黙って背中に大剣を戻し、ガオウの元に近付いて彼が生きているのを確認すると、残念そうに呟く。



『……お前も違ったか』



本気を出したガオウならば自分を脅かす存在になるのではないかと考えたガオウだったが、彼はせめてもの情けか回復薬を取り出し、それをガオウの両腕に降り注ぐ。彼の腕がこれで治るかどうかは不明だが、ガオウを置いてゴウカはそのまま立ち去った――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る