――ゴウカは巨人国の辺境の地で生まれ、赤子の頃から彼は他の巨人族と比べても異様なまでの力強さを誇った。その力は赤ん坊を抱き上げようとした産婆の指を握りしめてへし折るほどであり、この時にゴウカの両親と彼の親戚は心底恐怖したという。

聖女騎士団に所属するルナは「剛力」の技能を生まれた時から身に付けていたが、ゴウカの場合は異なる力を持っていた。彼が身に付けていた技能は「馬鹿力」と呼ばれる技能だった。

馬鹿力は名称だけでは少し勘違いされそうな力だが、この馬鹿力の本質は「火事場の馬鹿力」の如く、人間が緊急事態に陥った場合のみに限り引き起こす力である。筋力を強化させるという点では「怪力」や「剛力」と同じだが、この二つと違う点は馬鹿力の場合は常に肉体の限界まで力を引き出す。

馬鹿力は剛力とは異なる点は常に自分の筋力を強化させた状態を維持する事に等しく、普通の人間ならば身体が壊れてもおかしくはない。だが、ゴウカの場合は全ての種族の中でも筋肉と体格に恵まれた巨人族であり、その負荷に耐え切れる強靭な肉体を生まれ持っていた。

ゴウカを産まれたばかりの時は両親も他の親族も彼の事を不気味に思いながらも見捨てる事はせず、彼を育ててやった。しかし、ゴウカは他の巨人族と比べても非常によく食べ、成長速度も尋常ではなかった。１０才を迎える頃には既に大人と同じ程度の身長にまで成長し、更に村一番の怪力を誇る。

異常な速度で成長するゴウカに対して彼の家族だけではなく、他の村人も不気味に想う。最もゴウカ本人は裏表のない性格で自分が冷たくされていても他の者に危害を加えたりはしなかった。

だが、そんなゴウカの人生が狂ったのは彼が１０才の誕生日を迎えた少し後、村に魔物が侵入してきた。その魔物は巨人族をも上回る体躯を誇る巨大な生物だった。

外見はマンモスと似ているが、牙や鼻が異様に長く、灰色の体毛で覆われていた。その魔物はゴウカが暮らしていた村に突如出現し、村の男達が総出になっても敵わず、建物は破壊され、農作物を荒らされてしまう。

この時に村を救うためにゴウカは魔物に立ち向かい、初めて魔物との戦闘を迎えた。しかし、１０才でありながらゴウカは村の大人の誰よりも力強く、更に彼はこの戦闘で特殊技能を身に付けた。

生まれながらの戦闘の才能（センス）が優れていたらしく、誰にも習わずにゴウカは力を集中させ、一気に解放する術を身に付けた。それはこの格闘家の間では「溜力」と呼ばれ、原理は筋肉を一時的に凝縮させ、一気に解放する事で爆発的な力を引き出す技能だった。

結果から言えば魔物はゴウカによって倒され、彼の村は半壊状態にまで追い込まれたが、幸いにも死傷者は一人も出なかった。しかし、命を賭して魔物に挑んだゴウカに対し、村人達は不気味に思う。

『消えろ、この悪魔めっ！！』

『お前は巨人じゃない……鬼だ！！鬼の子だ！！』

『この村から出て行け！！二度と戻ってくるな！！』

ゴウカが居なければ村は壊滅し、どれほどの犠牲者が生まれたかも分からないのに村人達はゴウカを恐れ、彼を追い出す。村の大人達が総出でもどうする事も出来なかった魔物をゴウカが一人で倒した時点で彼は巨人族からも自分達と同じ存在とは認められなかった。

『そうか、俺は鬼の子か……なるほど、納得したぞ！！』

だが、村を追い出された後もゴウカは落ち込みはせず、むしろ彼は長年の疑問が解けてすっきりした。彼は生まれた時から他の巨人族と自分が違う存在だと感じられ、違和感を抱き続けて生きてきた。そして村人からお前は巨人ではないと言われ、すぐに彼は納得する。

自分は巨人族とは違う存在だと悟り、彼は旅に出る事にした。彼の目的は自分と同じような存在を探し出すために旅に出た。その道中、何度か魔物に襲われる事もあったがゴウカは持ち前の馬鹿力で解決する。

最初の頃は傭兵として生きようとしたゴウカだが、どうにも相手が人の場合では自分が満足する戦いは出来ず、人間よりも厄介な魔物と戦う冒険者になる。この後に巨人国中の冒険者ギルドを行き歩いたが、国内に出現する魔物では満足できず、遂には他の冒険者ギルドへ拠点を移す。

ゴウカの目的は自分のように圧倒的な存在を見つけ出し、戦う事が目的だった。彼は成長するにつれてより強く、より強靭な肉体を手にした。そのせいでどんな敵と戦う事になっても苦戦さえもせず、それが彼に取って苦痛だった。

彼の人生で一番輝いていた思い出は最初に村を襲ってきた魔物との戦闘であり、あの時の出来事は今でも忘れられない。圧倒的な力を持つ魔物を相手にゴウカは全力を尽くし、勝利した。しかし、この戦闘以降に彼は魔物との戦闘で「苦戦」を味わった事はなく、どうにかして子供の時のように全力で戦える相手を求めて彼は生き続けてきた

――そして、強者を求める彼の元に一人の男が現れ、その男の言う通りに擦ればゴウカは目的を果たせると知り、彼は自分の目的のために王国と敵対する道を選ぶ。