第709話 現代の最強の冒険者

(まさかこいつらもやられたのか!?馬鹿なっ……金級に昇格したばかりとはいえ、こいつらも相当の実力者だぞ)



ゴウカが抱えている金級冒険者とはガオウも接点があり、最近に昇格したばかりではあるが王都に滞在する金級冒険者の中で上位の実力を誇り、将来的には黄金級冒険者にも昇格する逸材だった。


いくら白面の暗殺者が厄介な相手とはいえ、金級冒険者が簡単に負けるとは思えない。しかし、現実にゴウカに抱えられた二人は酷い状態であり、いったい何があったのかを問い質す。



「そいつらをやったのは誰だ!?白面の仕業か!?」

『いいや、違うぞ』

「違うだと……なら、誰だ!?」

『ふむ……』



ガオウの質問に対してゴウカは抱えていた二人を近くの建物に背中を預けさせる形で座らせると、改めてガオウは二人の様子を見てある事に気付く。この二人の共通点はどちらも鎧を身に付けており、しかもただの鎧ではない。魔法金属のミスリルで構成された鎧だった。


魔法金属は普通の金属よりも硬度が高く、高い魔法耐性を誇る。だからこそ簡単には壊れないはずだが、二人の身に付けているミスリルの鎧は何があったのか亀裂が走り、半ば砕けていた。



(馬鹿なっ……ミスリルの鎧をここまで破壊する奴が敵にいるのか!?ゴブリンキングでも迷い込んだってのか!?)



魔法金属製の鎧が無残に砕けており、その光景を確認したガオウは焦りを抱かずにはいられない。魔法金属を破壊する程の強大な力を持つ存在が敵に回っていた場合、放置できない。



(くそ、こいつらは誰にやられたんだ!?ゴウカが連れてきたという事は敵を倒したのか……待てよ、こいつそもそも何処からこの二人を連れてきた?)



ゴウカが負傷した2人を運んでいた事にガオウはここで疑問を抱き、そもそも彼は何処でこの2人を回収したのか気になった。ここでガオウは二人が身に付けたミスリルの鎧の壊れ具合を確認し、ある予感を抱く。



(馬鹿な……いや、流石にないか)



自分の考えに対してガオウは即座に否定し、いくら何でも有り得ないと考えた。しかし、どうしてもガオウは確認せずにはいられず、震える声でゴウカに問い質す。



「おい、ゴウカ……こいつらをやったのは誰だ?」

『……やはり、お前は勘が鋭いな』

「まさかっ……!!」



ゴウカはガオウの言葉に応えず、黙って彼は背中に抱えていた「竜殺しの大剣《ドラゴンスレイヤー》」を引き抜く。その光景を見たガオウは即座に駆け出して彼と距離を取った。




――信じがたい事に金級冒険者二人を追い詰めた相手はゴウカである事が判明し、即座にガオウは臨戦態勢に入った。彼が何の目的でどうして同じ仲間であるはずの冒険者を狙ったのかは分からない。だが、この男が敵に回ったのであればガオウは最悪の事態である。




王都の冒険者の間ではある話題がよく口にされる。その内容というのが最強の黄金級冒険者は何者かという議論であり、大半の冒険者は「ゴウカ」の名前を口にする。その理由は彼が他の黄金級冒険者と比べても圧倒的な功績を誇り、他の黄金級冒険者を相手にして後れを取った事がない。


組手という名目で冒険者達は互いに戦う事もあるが、ガオウは黄金級冒険者に昇格する前からゴウカに挑み、結局は一度も買った事はない。彼だけではなく、ハマーンもリーナも元黄金級冒険者であるギガンでさえもゴウカにまともに勝利した事は一度だってなかった。


唯一にゴウカに勝てる存在といえばマリンであり、魔術師である彼女ならば遠距離から攻撃を行ってゴウカを魔法で吹き飛ばす事は出来るかもしれない。しかし、ゴウカとマリンが戦った事は一度もない。そもそもマリンは魔術師であっても武人ではなく、あまり自分の強さに興味はない。


しかし、ゴウカは常日頃から強者との戦いを求め、その姿はかつて王都に存在した伝説の冒険者「リョフ」と酷似しているとギガンとハマーンは考えていた。



『性格は全く違うが、ゴウカはリョフとよく似ておる』

『似ている……どんな感じだ?』

『口で説明するのは難しいが……二人とも絶対的な強者であるが故に同じ苦しみを抱いておるよるに儂は見えるな』

『何だそれ……意味が分からねえ』

『はははっ、お主も奴と同じぐらい強くなれば分かるかもしれんぞ……いや、それは無理か』

『喧嘩売ってんのか!?』

『すまんすまん、別にからかったわけではない。そもそも同じぐらいの強さを持つ相手がいればそれは最強とは呼ばんからな……』



若かりし頃にガオウはハマーンから言われた言葉を思い出し、リョフもゴウカも自分が強すぎるが故に戦いにおいても自分を追い詰める存在が居なくなり、満足できなかった。




――但し、リョフの場合は自分の強さを高め続けるために敵を求めたのに対し、ゴウカの場合は生まれた時から彼に並ぶ存在は一人もおらず、一度でいいから自分と同程度、あるいはそれ以上の強さを持つ存在との戦いを求めて彼は冒険者になった。

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