第713話 氷華の力
「うがあああああっ!!」
「ガロ!?」
「止めろっ!?」
全員が助かるためにガロは震える腕で炎華を握りしめ、氷華が離れない右腕に向けて刃を放つ。それを見たゴンザレスとエルマは止めようとしたが、二人とも身体が凍り付いて上手く動けず、ガロを止める事が出来なかった。
自分の右腕に炎華を振り下ろしたガロは凍り付いて手首を切り裂き、魔剣を無理やりに引き剥がす。ガロの手元から離れた魔剣は地面に転がると、刃から放出されていた冷気が消え去る。
「がはぁっ……!?」
「うぐぅっ……!?」
「はあっ……はあっ……ちくしょうっ」
ガロ達の周囲に立っていた白面は氷華を恐れていちはやく撤退し、残されたのは氷漬けにされかけたエルマとゴンザレス、そして右腕の手首の先を失ったガロだけであった。
「ガロ!!なんて無茶をっ……!!」
「大丈夫か!?」
「……ああ、平気だ。悪かったな、お前等」
右手首を切り落としながらもガロは強がりを言い放ち、地面に落ちた氷華に視線を向けた。氷華には未だにガロの右手首が握りしめた状態で残っており、完全に氷漬けになっていた。
もしもガロが魔剣を手放さずに握りしめ続けていた場合、恐らくは冷気を放出し続け、この場所どころか周囲一帯が氷漬けにされていただろう。ガロは改めて氷華の恐ろしさを思い知り、マホが彼に魔剣を禁じた理由を知る。
(何だ、この魔剣は……こんな物、人が扱える代物じゃねえぞ)
ガロは自分の失った右手首に視線を向け、仲間を守るためとはいえ、自分自身で腕を切り裂いた事に歯を食いしばる。この腕ではもう双剣は扱えず、まともに戦う事も出来ない。
「ガロ!!すぐに右手首を繋げるんだ!!まだ、間に合うかもしれない!!」
「そうです!!傷口が完全に塞がっていない内ならば間に合うかもしれません」
「……馬鹿野郎、無理に決まってるだろ」
ゴンザレスとエルマはガロの右手首を繋げれば治る可能性がある事を告げるが、ガロは氷華に自分の右手首が凍り付いている光景を見てどうしようも出来ない事を告げる。
仮にこの状態で右手首を繋げることが出来たとしても、また氷華がガロの魔力を吸い上げて周囲を凍り付けにする可能性があった。そのため、ガロは自分の右腕を諦めるしかないと思った。
「俺の事は気にするな、それよりも早く奴等を追いかけるぞ」
「ガロ……」
「それでいいのか?」
「ああっ……老師との言い付けを破った俺が悪いんだ」
ガロは自分の右手首を失ったのは老師の忠告を聞かず、自分の意思で氷華を発動させたせいだと思い込む。だが状況的にはガロはゴンザレスを救うために咄嗟に取った行動であり、エルマもゴンザレスも彼を責めたりはしない。
右手首は諦めるしかないが、氷華を捨てるわけにはいかず、ガロは氷華を回収しようとした。しかし、この時に立ち去ったと思われる白面の集団がガロ達を取り囲む。
『シャアアッ!!』
「くっ……こいつら、まだ居やがったのか!?」
「ガロ、下がりなさい!!今の貴方では……」
「貴様等……よくも!!」
ガロを庇うようにエルマは立ち上がり、ゴンザレスは身体に痺れが残ってはいるが、それでも立ち向かおうとする。その一方でガロは炎華を構え、最後まで諦めるつもりはなかった。
(死んでたまるかよ、くそがっ!!)
3人に対して白面は武器を構え、ゆっくりと近づく。確実に仕留められる距離まで慎重に接近しようとする白面に対してガロ達は身構えると、何処からか馬の足音が鳴り響く。
「聖女騎士団!!突撃ぃいいっ!!」
「うおりゃあああっ!!」
「ふんっ!!」
「だああっ!!」
駆けつけてきたのは白馬に跨った聖女騎士団であり、団長のテンの号令の元、ルナ、アリシア、レイラ、ランファンが先頭を走って白面の集団に突っ込む。
「な、何だっ!?」
「あれは……母さん!?」
「母さん!?まさか、ゴンザレスの!?」
『シャアッ……!?』
聖女騎士団に所属するランファンはゴンザレスの母親であり、彼女は他の誰よりも巨大な白馬に跨り、息子に近付こうとした白面の暗殺者を両腕の棍棒で蹴散らす。
「金剛撃!!」
『ギャアアアアッ!?』
ランファンの両腕から繰り出された棍棒によって白面の集団は吹き飛び、その光景を見たガロ達は呆気に取られた。ランファンは息子以上の力を誇り、更に他の者達も負けずに白面を相手に武器を振りかざす。
ナイと同様に剛力の技能を持つルナは戦斧を振り回し、イリアの育て親でもあるアリシアはレイピアで馬上から敵を突き刺す。レイラはガロと同じように双剣を扱うが、彼女の方が鋭い斬撃を繰り出す。
「うりゃあっ!!」
「せいやぁっ!!」
「かあっ!!」
『うぎゃあああっ!?』
圧倒的な強さで聖女騎士団は数十名の白面を吹き飛ばし、その光景を見たガロ達は愕然とした表情を浮かべる。そんな彼等の前にテンは馬から降り立つと、彼女は落ちている氷華とガロが手にした炎華に気付いた。
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