第693話 最悪の刺客

「まだ、やりますか?」

「はあっ、はあっ……当たり前だ」

「くそがっ……」

「ちくしょうっ……!!」



残された暗殺者達はナイの言葉を聞いて武器を構えるが、その半分はもう戦意を失いかけており、身体が震えていた。どうあがいても自分達では勝てない程に力の差を感じていた。


ナイは全員倒す以外に方法はないかと考え、改めて向かい合う。しかし、この時に外側に繋がる出入口の方から物音が聞こえた。どうやら外側から何者かが辿り着いたらしく、激しく扉を叩く音が鳴り響く。



(誰だ?まさか、アルト達が来てくれたのか?)



想っていたよりも早くに援軍が駆けつけてきたのかと思ったナイだが、どうにも様子がおかしい。ナイが調合室から運び出した薬棚によって扉は封鎖され、棚を退かさない限りは通り抜ける事は出来ない。


しかし、外側から叩く音が徐々に大きくなり、強い衝撃が外側から響き、いったいどれほどの力を持っているのか徐々に金属製の扉が凹み始めた。



「何だ……!?」

「こ、これは……まさか、奴らが!?」

「くそっ、こんな時にどうして……」

「お、おい!!これ、やばいんじゃないのか!?」



扉が徐々に衝撃で変形し、それを確認した他の暗殺者も混乱する様子を見てナイは何が訪れるのかと待ち構えると、やがて扉が破壊されて封鎖していた薬棚も吹き飛ぶ。




――外側から現れたのは漆黒の仮面を被った二人組であり、片方は小髭族のように小柄な男、もう片方は身長が3メートル近くも存在する全身を黒色のフードで覆い隠した男だった。




唐突に現れた謎の二人組に対してナイは異様な雰囲気を感じ取り、暗殺者達は身体を震わせる。その一方で小柄な男の方は肩に背負っていた木箱を置くと、酒場の惨状を見てため息を吐き出す。



「お前等……これはいったいどういう事だ?」

「ブフゥッ……!!」



男性が語り掛けるともう片方の巨人が仮面越しに呻き声を漏らし、それを耳にしたナイは驚愕の表情を浮かべる。その一方で他の暗殺者達は慌てふためき、説明を行おうとした。



「ま、待ってくれ!!いや、待ってください!!これには事情があって……」

「事情だと、どういう事情があるんだ?言ってみろ、但し変な事を口にしたら……分かってるんだろうな?俺の相方が許さないぞ?」

「ブフゥッ……フゥッ……!!」



小柄な男が隣に立つ巨人を指し示すと、暗殺者達は身体を震わせ、その場で膝を付いた。その態度を見てナイは彼等と男達の間には上下関係が存在し、漆黒の仮面を纏った二人を見て彼等よりも上の立場の人間だと知る。


これまでにナイが対峙した白面の暗殺者は全員が仮面を身に付けており、研究員でさえも仮面を身に付けさせていた。しかし、目の前に現れた二人組は漆黒の仮面を身に付けており、不気味さを感じさせる。そんな二人に対してナイは問い質す。



「誰だ!!あんた達も白面なのか!?」

「あん?何だ、このガキは……いや、待てよ。その顔、見覚えがあるな」

「ブフゥッ……!!」



ナイに話しかけられた小柄な男は振り返ると、彼の顔を見た途端に懐に手を伸ばし、羊皮紙の束を取り出す。その中からナイの似顔絵が記された羊皮紙を確認し、感心したような声を上げる。



「ほう、なるほど……そう言う事か」

「……?」

「お前さん、うちの組織の抹殺対象に含まれているぜ。しかもかなりの危険人物として認識されているな……なるほど、こいつらをやったのもお前か」

「ぐはっ!?」



倒れていた暗殺者の一人に小柄な男は顔面を蹴り飛ばし、その際に暗殺者は鼻血を噴き出す。その男の行動にナイは怒りを抱き、刺剣を放つ。



「止めろっ!!」

「うおっ!?」



男の足元に刺剣が突き刺さり、慌てて男は後ろに下がると、仮面越しにナイを睨みつけた。仮面の目元の隙間部分から男はナイを確認し、そして相方と呼んだ巨人に声を掛けた。



「ガキが、調子に乗りやがって……やれ!!」

「ブモォオオオッ!!」

「ひいいっ!?」

「に、逃げろっ!!」



男の言葉に反応してフードで全身を覆い隠していた巨人が姿を露にすると、その正体はかつてナイが倒した「ミノタウロス」と同種だと判明する。しかし、ナイが倒した個体とは異なり、今回のミノタウロスは全身が黒色の体毛に覆われていた。


ミノタウロスといっても種類が存在し、生息する地域によっては体毛の色が異なる場合がある。今回ナイの前に現れたミノタウロスは全身が黒毛に覆われており、両腕と両足の部分には腕輪のような物を装着していた。



「ブモオオオッ!!」

「やっぱり、こいつか……!!」



最初に呻き声を聞いた時からナイは正体に勘付き、まさか武器が手元にない状態でミノタウロスと戦う事になるなど想像もしていなかった。しかも以前に戦ったミノタウロスよりも危険な雰囲気を纏っており、男の命令でミノタウロスはナイの元へ向かう。

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