第694話 再戦ミノタウロス

「ブモォオオオッ!!」

「くっ……うおおおっ!!」

「なっ!?馬鹿か!?」

「正面からやりあうつもりか!?」



拳を振りかざしたミノタウロスに対してナイは剛力を発動させ、自分も拳を振りかざす。その行動に暗殺者達は驚くが、ナイは全力で拳を握りしめて放つ。


ミノタウロスとナイの拳が激突し、その衝撃だけで二人の足元の床が砕けそうになり、お互い後ろに弾かれてしまう。ナイは拳を痛め、確実に指の骨に罅が入り、その一方でミノタウロスも拳を抑える。



「ブモォッ……!?」

「うぐぅっ……!?」

「ひゅうっ、中々やるな!!資料通りの馬鹿力だ!!」



小柄な男は拍手を行い、ナイの似顔絵が記された羊皮紙を片手に呑気に落ちていた椅子に座り込む。その余裕の態度にナイは苛立つが、ミノタウロスは今度は反対の拳を放つ。



「ブモォオオオッ!!」

「このっ!!」



再び攻撃を仕掛けてきたミノタウロスに対してナイは今度は拳ではなく、左肘を叩きつける様に放つ。ナイの肘に向けてミノタウロスは拳を叩きつけてしまい、反射的に「迎撃」の技能を発動させた事で今度はミノタウロスの拳が砕ける。



「ブギャアアッ……!?」

「ぐあっ……!!」



しかし、肘で攻撃を受けたナイの方も無事では済まず、左腕が変な方向に曲がってしまい、すぐに腕を無理やりに正しい方向に伸ばす。


曲がった腕を伸ばす際に激痛が走るが、それでもナイは歯を食いしばり、再生術を発動させた。どんなに負傷しようと魔力を消耗して再生機能を強化させればたちまち傷は治る。その一方で負傷したミノタウロスは治す手段はなく、今度はナイが反撃に出た。



「喰らえっ!!」

「ブモォッ!?」



ナイはミノタウロスに向けて瞬動術を発動させ、一気に懐に潜り込む。そのままナイはミノタウロスの身体に抱きつき、力ずくで壁に叩きつける。



「うおおおっ!!」

「プフゥッ!?」

「ほう、こいつは驚いた!!ミノタウロスと渡り合える力を持つ人間が居るとはな!!」

「す、凄い……」

「あのガキ、何て力だ……!?」



ナイのあまりの力強さに他の者達も圧倒され、特に小柄な男は楽しそうな声をあげる。そんな男の態度にナイは怒りを抱く、まずはミノタウロスを何とかするために両手をミノタウロスの腹部に両手を伸ばす。


まだ使い慣れない技であるため、上手く発動できるのかは不明だが、フレア公爵家のドリスの親衛隊であるリンダから教わった技を放つ。



「だああっ!!」

「ブフゥウウウッ!?」



ナイが使用したのは両手から繰り出す「発勁」であり、この世界の発勁は相手の体内に衝撃を放つ技として伝わり、ミノタウロスは血反吐を吐く。リンダ程ではないが、ナイの一撃を受けたミノタウロスは身体を震わせ、膝を着く。


かなりの体力を消耗したが、無事に発勁が発動出来た事にナイは安堵するが、この程度で倒せる相手ではない。ここでナイは強化術を発動させ、最後の攻撃を仕掛けた。



「うおおおおっ!!」

「ブモォッ……!?」



強化術によって身体能力を限界以上まで引き出したナイは膝を着いたミノタウロスと距離を取り、助走を付けて加速した状態で跳び膝蹴りを顔面に叩き込む。



「これで終わりだぁっ!!」

「フガァッ!?」



顔面にナイの膝が叩き込まれ、ミノタウロスは鼻血を噴き出しながら倒れ込む。その光景を見ていた他の暗殺者は信じられない表情を浮かべ、流石の小柄な男も黙り込んだ。



「はあっ……はあっ……!!」

「し、信じられねえ……あの化物を本当に倒すなんて」

「なんてガキだ……」

「…………」



攻撃の際にナイは膝を負傷し、更に再生術と強化術の反動で一気に魔力を失う。元々100人近くの暗殺者の相手をした後の戦闘のため、身体の負担が大きすぎた。



(まずい、このまだと意識が……!!)



頭がふらつき、体力も魔力を限界を迎えたナイはどうにか魔法腕輪の煌魔石から魔力を吸収して回復を計る。しかし、ここで小柄な男は立ち上がると、倒れているミノタウロスの元へ向かう。


男がナイの横を通り過ぎる際、この時にナイは男の手元に注射器が握りしめられている事に気付き、驚愕の表情を浮かべた。男はミノタウロスの前に立つと、面倒そうな表情を浮かべながらもミノタウロスの首筋に近付ける。



「役立たずが……さっさと起きろ」

「ブフゥッ……!?」



既に瀕死状態のミノタウロスに向けて男は何か差し込むと、直後にミノタウロスの肉体に異変が生じた。注射器を打ち込まれた瞬間、ミノタウロスの身体が膨れ上がり、体格が大きくなり、起き上がる。



「ブモォオオオッ!!」

「よし、良い子だ……さあ、やれ!!」

「そんなっ……!?」



先ほどまでは瀕死で動けなかったはずのミノタウロスが起き上がり、身体中の血管が浮き上がっていた。それはナイの強化術を発動した時の姿と酷似しており、ミノタウロスはまともに動けないナイに向けて右足を振りかざす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る