閑話 《研究員の嘆き》
「――なあ、おい……さっきの奴、本当に俺達を救い出してくれると思うか?」
「馬鹿野郎、そんな事を出来るはずがないだろ」
「くそっ……このままだと、俺達は死ぬんだぞ」
調合室ではナイによって拘束された研究員たちが一か所に集まり、彼等は両手両足を縛られた状態だった。彼等は毒薬の製作を行うために拉致された薬師や医者であり、ここでは毒薬の製造を強制されていた。
ゴエモンの妻のヒメのように彼等は毒薬の製造を強制され、それと同時に秘密裏に解毒薬の製造を研究していた。彼等が解毒薬を製造していたのは自分達が助かるためでもあるが、暗殺者の一部は自由になりたいがために解毒薬の製造を指示する者も居た。
「俺達、このまま捕まって牢獄に送り込まれるのかな……」
「どっちにしろ、ここまで警備兵が来られたら組織も解毒薬なんて送り込まないだろ」
「くそ、奴ら……いったい何の素材を作っているんだ?」
「あの解毒薬さえあれば……」
解毒薬を分析できれば使用されている素材も判明するかもしれないが、生憎とこの場所に解毒薬が運び込まれる際は組織が送り込んだ「幹部」の監視の元で全員に投与が行われる。
過去に解毒薬を盗み出そうとした輩もいたが、その人物の末路は悲惨であり、全身の四肢を引き裂かれた。その後、死骸の処理はここの拠点の暗殺者に行わせた。もしも自分達に逆らえばこうなるのだと思い知らせ、改めて白面がどれほど恐ろしい組織なのかを思い知らされた。
「……そう言えば次の解毒薬が届く日はいつだっけ?」
「さあな……ここにいると時間の感覚がおかしくなっちまうからな」
「この間、やったばかりのような気がするが……」
解毒薬が送り込まれる日は決まってはおらず、早い時は前回の一週間後に訪れる事もあった。毎回、王都の本部から解毒薬が送り込まれるのだけは間違いなく、研究員たちはどうにか解毒薬を盗む方法を考えていたが、もうそれも難しい。
「そういえばあいつ……幹部の名前、何だっけ?」
「あの黒仮面の事か……」
「不気味な奴だよな……それにあいつが従えている奴もな」
黒仮面とはこの場所に解毒薬を届ける幹部の渾名であり、文字通りに幹部は何故か黒色の仮面を被っていた。白面はほぼ全員が白い仮面を身に付けているのに対し、幹部は黒い仮面の装着を義務付けられている。
20年前の白面は全員が白色の仮面に統一されていたが、現代の白面は組織系統が異なり、実を言えばここに存在する白面はただの末端隊員に過ぎない。王都には白面の幹部が存在するはずであり、彼等の事は研究員たちも恐れていた。
「あいつ、不気味だよな」
「そうだな……」
「……もしもあいつが戻ってきたら、あのガキはどうなるかな?」
「さあな……」
「……随分と若かったな、まだ子供じゃないのか?」
「俺のガキも……あいつぐらいの年齢なんだよな」
「……会いたいな、家族に」
研究員たちには家族が存在し、今も外の世界で自分達を待っていると信じていた。だからこそ彼等は何としても解毒薬を作り出して助かりたいと思っていたが、その希望も潰えてしまうのかと嘆く。
しかし、この後に起きる出来事で彼等の人生は大きく変わる事を今の時点では想像できなかった。
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