第690話 大暴れ
――ナイ達が訪れた後、しばらくしてから酒場内でくつろいでいた暗殺者達は先ほど階段を降りて行ったナイ達が戻ってこない事に違和感を抱く者達も存在した。
「おい、さっきの奴ら……なんか、怪しくなかったか?」
「ああ、俺も思った」
「ていうか、あいつらの声……聞き覚えあるか?」
「臭いも何か変な気がしたな」
獣人族である彼等は人間よりも聴覚と嗅覚が優れ、ナイ達が消えた後に彼等から感じた臭いと声に覚えがない事に勘付き、疑問を抱く。
この場所を拠点とする白面の暗殺者は総勢100名であり、何年も彼等は共にこの場所で過ごしてきた。だからこそ聞き覚えのない声や臭いを発していたナイ達に対して怪しく思う。
「おい、あいつらを探し出そうぜ。もしも侵入者だったら……」
「まさか……ここまで嗅ぎつける奴なんているわけないだろ」
「分からねえだろ。この間だって、お前等変な気配を感じたんだろう?」
「いや、それは……」
白面の暗殺者の中には自分達が尾行されているような感覚を覚えた者も含まれ、彼等を尾けていたのは当然だがゴエモンである。地上で尾けられていた場合ならば臭いでばれてしまうのだが、場所が下水道だったせいで彼の臭いを嗅ぐ事は出来なかった。
下水道にはあらゆる臭気を吸い込む魔石が取り付けられており、そのお陰でゴエモンは白面を尾行する時は足音や気配だけに気を付ければ良かった。そのお陰で彼は巧妙に尾行を行い、白面の拠点を探し当てる。それでも勘の良い暗殺者は彼の存在を何となくだが勘付いていた。
「あいつら、ここへ来た時からずっと仮面もローブも脱がなかっただろ。仕事に戻るからって誤魔化してたけど、階段を降りてからかなり時間が経っているぞ」
「まさか本当に……?」
「い、いやいや……考え過ぎだろ、それにあいつらが外に出るとしたらここへ戻ってくるんだ。他に出入口なんてないしな……その時に正体を暴けばいいだろ?」
「馬鹿野郎、調合室と植物園にいる人間共が狙いだったらどうするんだ!?あいつらじゃないと薬も植物も育てられないんだぞ!!」
「お、落ち着けよ!!分かったよ、探しに行けばいいんだろ!?」
獣人の一人が騒ぎ出し、大声に驚いた他の者達も顔を向ける。ここでやっとナイ達の存在を怪しく思った者達が動き出そうとした時、階段の方から音が聞こえてきた。
「ん?なんだ、この音……」
「下の階段から聞こえてくるが……」
音には敏感な獣人族の暗殺者達は疑問を抱き、階段の方に視線を向ける。まるで何かを引きずるような音が鳴り響き、それに疑問を抱いた者達の何人かは階段を見下ろす。
「うるさいな、何の騒ぎだ?」
「人が酒を楽しんでいる時……」
「お前等、見て来いよ」
「ちっ……仕方ないな」
この時に数名の獣人が面倒そうな表情を浮かべながらも階段を降りていく。しばらくすると下の階から響いて来た音が小さくなり、やがて完全に聞こえなくなった。
音が止んだので酒場の者達は安心しかけたが、直後に階段の下の方から凄まじい速度で複数の物体が飛んできた。それを確認した瞬間に酒場内に存在した者達は即座に身構え、正体を見極める。
「ぐはぁっ!?」
「ぎゃああっ!?」
「何だ!?」
「お、お前等……いったい何が起きた!?」
吹っ飛んできたのは先ほど階段を降りた者達であり、階段の下から吹っ飛んできた彼等に他の獣人は駆けつける。いったい何が起きたのか彼等は身体を震わせ、痛みを来られる。
「あ、ああっ……」
「おい、どうした!?何があったんだ!?」
「に、人間が……!!」
「人間!?まさか、さっきの奴らか!?」
「くそ、侵入者だ!!戦闘態勢!!」
下から吹き飛んできた者の言葉に酒場内存在した全員が戦闘態勢に入り、仮面を装着する。彼らは鍛え上げられた暗殺者であり、精神面も鍛えられているので滅多な事では取り乱さない。
しかし、次に階段から吹っ飛んできたのは獣人ではなく、調合室に設置されているはずの薬棚だった。薬品を収めるための薬棚が下の階から投げ飛ばされて酒場内に放り込まれる。しかも数は1つではなく、合計で3つの薬棚が放り込まれた。
「な、何だぁっ!?」
「こ、これは……調合室の!?」
「馬鹿、取り乱すな!!」
「おい、誰か来るぞ!!」
階段を登る足音が鳴り響き、その足音を耳にした暗殺者達は身構えると、信じられない光景が視界に映し出された。それは一人の少年が自分の身の丈よりも大きな薬棚を片手で掲げ上げ、階段を上がる姿だった。
金属製のしかも危険な薬品を収めるために設計された特別製で重量のある薬棚をその少年は軽々と片腕で持ち上げ、やがて酒場に姿を現す。その少年は仮面やローブを身に付けておらず、堂々と酒場内に存在する暗殺者と向かい合う。
「数は……だいたい100人ぐらいか、これなら問題はないかな」
「な、何だお前はっ……!?」
「……あんた等の敵だよ!!」
薬棚をわざわざ二階まで運び込んだナイは剛力を発動させた状態で振りかざし、勢いよく自分達が入ってきた扉に向けて投げ込む。
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