第687話 逃げられぬ運命
「ば、馬鹿な……何故、お前がこれを!?」
「い、入れ墨?」
「これって暗殺者の人たちも刻んでた……よね?」
「いいえ、これは入れ墨じゃないの……これは毒なのよ」
「毒!?」
髑髏の入れ墨を想像させる紋様が腕に浮かんだヒメによると、彼女はこの紋様がただの入れ墨ではなく、自分をこの場所に縛り付ける原因だと説明する。
「私がこの植物園の管理を任された際、あいつらに毒を打ち込まれたの。私は腕に毒を注入された後、この髑髏のような紋様が浮かんだの……これは奴等が独自に開発した特別な毒で、一定時間事に特別な薬を打ち込まないと死んでしまうの」
「ば、馬鹿なっ……」
「その薬は別の場所で製造されていて定期的にここへ送り込まれるの。だけど、その薬がないと私は一か月程度で毒に襲われ、死んでしまうわ。暗殺者が普段から所持している毒薬は知っている?」
ヒメの言葉を聞いてナイ達は先ほど調合室で回収した毒薬の事を思い出し、ヒメによるとあの毒薬もただの毒ではない事が発覚した。
「あれは普通の人間に使っても猛毒だけど、実は死ぬほどの毒じゃないの。でも、事前にこの髑髏が浮かんだ人間に使用すると……たちまちに体内に入り込んだ毒と反応して即座に死に至るわ」
「ば、馬鹿な……」
「仮面の人たちの話によると毒薬を飲んだ後でも、あの仮面を身に付けていると毒の周りが遅くなる。特別な樹木で作り出された仮面らしくて、ほんの少しだけど解毒作用があって毒を飲んだ後でも1時間ぐらいなら普通に活動できるそうだわ。でも、仮面を外すとその反動で一気に毒が回るらしいけど……」
「そんな……」
ナイ達はヒメの話を聞いて顔を青くさせ、その話が事実ならばヒメは毒薬を飲めば他の暗殺者のようにすぐに死んでしまうだけではなく、仮に逃げだとしても一か月の命だと判明する。
ゴエモンは話を聞いてその場で膝を着き、そんな彼をヒメは寂し気な表情を浮かべて彼を抱きしめる。折角再会できたのにここから連れ出せば妻の命が助からないという事にゴエモンは嘆く。
「どうして、どうしてお前だけがこんな目に……」
「そんな事を言っては駄目よ……ここには私以外にも苦しんでいる人たちがいる。それはあの暗殺者の人たちも同じなのよ」
「え?」
「彼等も好きで人を殺しているわけじゃないの、だけど逆らえば自分達が死んでしまう。誰かを殺さないと生きられないから戦っているのよ……」
「そんな……」
「最も、彼等も人を殺す以上は自分達も殺される覚悟は抱いているはずだわ。だから……躊躇しては駄目よ、貴方達がもしもここから逃げ出す時、戦う事になれば全力で戦いなさい」
「何を言っている……まさか、お前はここに残るつもりか?」
「ええ、そうよ……でも、それは生き残るためじゃない。私はここで彼等と共に死ぬわ」
ヒメは覚悟を決めたように彼女は花壇に視線を向け、決意を抱いた表情を浮かべる。その姿を見てゴエモンは何をするつもりなのか問い質す。
「おい、何を考えている!?」
「……貴方、私が家で花壇を育てていた事を覚えている?」
「あ、当たり前だ。忘れるわけがないだろう、お前はいつも肥料代わりに地属性の魔石を粉末になるまで磨り潰して花壇の土に混ぜていたからな……」
「そう、覚えていてくれたのね。でも、この花壇を見て何か違和感を感じないかしら?」
「何だと……?」
「え?花壇?」
「……きらきらした物が散らばっているようにしか見えないけど」
「ぷるぷるっ……ぷるんっ!?」
花壇に視線を向けたナイ達は魔石の粉末が花壇の地面に散らばっている事に気付き、この時に真っ先に反応したがのプルミンだった。
プルミンが唐突に震え出したのを確認すると、ナイは疑問を抱いて観察眼を発動させてもう一度確認する。すると、赤色に輝く粉末が混じっている事に気付き、ナイは疑問を抱く。
通常の地属性の魔石は茶色であり、赤色ではない。それならばどうして赤色の粉末が混じっているのか、その事実にナイは衝撃の表情を浮かべた。
「これはまさか……火属性の魔石の粉末!?」
「な、何だと!?」
「ええ、その通りよ……よく分かったわね」
「ちょ、ちょっと待って……ここにあるの全部に魔石の粉末が!?」
「ええええっ!?」
ナイはすぐに植物園を見渡し、あちこちの花壇に赤色の粉末らしき物が振りかけられている事に気付く。地属性の魔石の粉末と混じっているので見分けるのは難しく、指摘されなければ絶対に気付かない。
どうしてヒメが地属性だけではなく、危険な火属性の魔石の粉末を花壇にふりまいているのかとナイ達は戸惑うと、彼女は覚悟を決めた表情で告げた。
「私はここで彼等と共に心中するわ……この場所を燃やされたら彼等は毒薬も、そして解毒薬も作り出す事が出来なくなる。だからこの街から白面はいなくなるわ」
「なっ……!?」
「でも、貴方達まで死ぬ必要はない……さあ、早く逃げなさい。夫の事をどうかよろしくお願いします」
ヒメはナイ達に頭を下げると、ゴエモンの事を彼等に託す。そんな彼女の言葉にゴエモンは信じられぬ表情を浮かべ、ナイ達も唖然とした。
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