第686話 夫婦の再会

「馬鹿、な……」

「ゴエモンさん?」

「見つかったら怪しまれますよ!?」



ゴエモンは植物に水を与える人物を見てふらふらと近寄ろうとしたが、慌ててナイ達は止めようとした。だが、彼の女性から視線は離れず、その反応を見てナイ達はすぐに女性の正体に勘付く。



「まさか……!?」

「え、嘘っ……!?」

「あの人が……奥さん?」

「……ヒメ!!」



植物園に広がる程の大声をゴエモンが言い放つと、植物に水を与えていた女性の身体が硬直し、やがて彼女はゆっくりとゴエモンの方を振り返る。ゴエモンは即座に仮面を取ると、女性はその顔を見て立ち尽くす。



「ヒメ、俺だ……ゴエモンだ!!」

「……あなた、本当にあなたなの?」



ヒメと呼ばれた女性は仮面を外し、素顔を晒す。少し顔は老けているが整った顔立ちをしており、ゴエモンはその顔を見て自分の妻だと見抜くと居ても立っても居られずに走り出す。


お互いに駆け寄って二人は抱き合い、数年ぶりの再会を果たす。二人は涙を流しながら抱きしめ合い、ヒメは信じられない表情で彼を見上げた。



「あなた……本物なのね」

「ああ、すまなかった……本当にすまなかった。俺はお前を守る事が出来なかった……」

「いいのよ、そんな事……こうして会えただけでも嬉しいわ」



感動の再開を果たしたゴエモンとヒメは喜び合うが、どうしてヒメがこんな場所でしかも拘束もされずに暗殺者が毒薬として利用する植物の手入れを行っていたのかをゴエモンは問い質す。



「お前、どうしてこんな場所に……てっきり、俺は捕まっているかと思ったぞ」

「そういう貴方こそどうしてここに……それにその恰好、まさかあなたも彼等の仲間に?」

「待て……仲間だと?どういう意味だ?」



ヒメの言い回しにゴエモンは驚いた表情を浮かべるが、そんな彼に対してヒメは申し訳なさそうな表情を浮かべ、自分の身に起きた出来事を話し始める。



「ごめんなさい、あなた……私はとんでもない過ちを犯してしまったわ……」

「ヒメ……?」

「私は――」






――事の発端はヒメが白面の暗殺者に攫われた事が切っ掛けであり、彼女は誘拐されたと、すぐにこの場所に連れ込まれた。彼女が捕まった理由はゴエモンの妻であり、彼にとっては唯一の大切な人間だった。


ゴエモンの人質として拘束されたヒメは逃げられない様に監視され、しばらくの間は檻の中に捕まっていたという。しかし、尋問の際に彼女は自分が「栽培」と呼ばれる技能を所持している事を話すと、すぐに対応が変わった。


栽培の技能は文字通りに植物を育てる際に役立つ技能であり、この技能を所持した人間が育てる植物は成長が早く、しかも実りも多くなる。元々はヒメは花屋を嗜んでいた時期もあり、この技能を覚えていたという。


結婚していた時も花壇を育てていたので彼女の栽培の技能は衰えず、すぐにこの植物園へと配属され、働くように強制された。だが、ここで働けばヒメはある程度の自由は認められ、外に出る事は許されないが彼女が拷問は受けず、ひどい扱いをされる事はなかった。


しかし、ヒメが育てている植物の殆どは毒草であると理解しており、自分が作り出した毒草が暗殺者が扱う毒薬や、自害用の薬になる事を知りながらも彼女はひどい扱いを避けるために育てるしかなかったという。






「ここで作り出された植物のせいで大勢の人間が命を落としていると聞いた時、もう私はあなたに合わせる顔がないと思ったの……だから半年前、あなたに手紙を送るのを辞めたわ。手紙を送らなければあなたは私が死んだと思ってくれると思ったから」

「そんな……何を言ってるんだ、俺がお前を見捨てるわけないだろう」

「いいえ、見捨ててちょうだい……私は人殺しよ、この手で育て上げた毒草のせいで何人が死んだの?いいえ、何十人、何百人も犠牲になっているかもしれない……もう私は汚れてしまったのよ!!」

「そんな事はない、悪いのは奴らだ!!」



嘆き悲しむヒメの姿を見てゴエモンは彼女を慰めようとするが、ヒメもずっと長い間罪の意識を感じていたらしく、もう彼女は精神が限界だった。そんな時に最愛の夫と再会した事で我慢できずに自分の犯した罪を吐露した。



「死ぬ前にあなたに出会えてよかったわ……さあ、あなたは逃げて。そこにいる人達はあなたの仲間?貴方達も早く逃げた方が良いわ……こんな場所に居たらすぐに見つかってしまう」

「何を言ってるんだ、お前を置いて行けるはずがないだろう!?」

「いいえ、駄目なのよ……私はここから出たら死んでしまうの」

「何だと……どういう意味だ!?」

「まさか……!?」



ヒメの言葉にゴエモンは驚愕し、話を聞いていたナイも嫌な予感を抱き、そんな二人に対してヒメは黙って右腕の袖を捲って見せつける。すると彼女の右腕には髑髏の入れ墨が刻まれていた。

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