第685話 調合室と植物園
「よし、開いたぞ……慎重に開けろ」
「はい……」
「どきどきっ……」
「ぷるぷるっ……」
ゴエモンの指示の元、ナイ達は慎重に扉を開いて中の様子を確認する。調合室というだけはあり、王都の王城のアルトの研究室のような場面が広がった。
アルトが所有する研究室はイリアが薬の調合する際にも利用しているが、この部屋は更に実験器具や薬棚が多く、完全に薬を調合するだけの場所だった。壁際の薬棚には怪しい色合いの液体が並べられ、見た事もない実験器具も置かれていた。
「うっ……ここ、変なにおいがするよ」
「薬臭い……」
「あまり長居はしない方が良いな。みろ、こいつを……どうやらここで毒薬も調合しているようだな」
調合室の机の上にはナイ達が拘束した暗殺者が所持していた毒薬と同じ色合いの液体が入った瓶が並んでおり、この場所で毒薬の製造がされていた事が判明する。更に机の上には数種類の野草が置かれており、それを見たナイはすぐに毒草だと気付く。
「これ、全部毒草だ……しかもかなり危険な物も混じっている」
「分かるのか?」
「山育ちなので野草とかは見分けられます」
ナイは狩人のアルに育てられたとき、山で採取を行う時は食べられる野草と毒のある野草の種類を詳しく教えてもらった。机の上に並べている野草の中にはアルから教わった毒草が混じっており、これらを調合して毒薬を製造している事が判明した。
この時にナイは机の上に置かれている毒草を全て把握しておき、後でイリアに伝えれば彼女ならば毒薬の素材の種類を把握すれば解毒薬が作れる可能性が高い。そう判断したナイは野草を記憶していると、ここで部屋の奥の方から顔に奇妙な形をした白面を身に付けた者達が話しかける。
「おい、誰だお前達は!?」
「ここは調合室だぞ、勝手に入ってくるな!!」
「ちっ……!!」
部屋の中には人が残っていたらしく、彼等は中に入ってきたナイ達を怪しむ。それを見たゴエモンは戦闘は避けられないかと思ったが、ここでナイは机の上に置かれている薬瓶に視線を向け、それを取り上げる。
「すいません、これから仕事なのでこの机にあるの持って行っていいですか?」
「何!?それは駄目だ、まだ作り立てだぞ。効果を試していない……それに毒薬を持ち出す時はここからではなく、棚の物から持っていけと言ってるだろう!!」
「あ、すいません……」
「全く、これだから獣は……」
「……んっ?」
調合室に存在する部屋の人の言葉にナイは疑問を抱き、この時に彼は観察眼を発動させて様子を伺う。研究を行っている者達は仮面は身に付けているがロープは纏っておらず、イリアのような白衣を身に付けていた。そして彼等の頭には獣人族特融の獣耳は生えておらず、ここでナイは彼等が人間だと見抜く。
(あの人たち、人間じゃないんですか?)
(何だと……確かに獣耳は無いな)
(あ、あれ?暗殺者の人たちは全員が獣人族じゃないの?)
(そういえば僕達が捕まえた人たちも人間だったけど……)
(ぷるぷるっ?)
部屋の中で実験を行う者達はどうやら全員が人間である事が判明し、これまでに発見された暗殺者は全員が獣人族だったが、彼等は人間だった。いったいどうして人間が毒薬の製造に関わっているのか気になったが、これ以上に長居すると怪しまれてしまう。
ナイ達は調合室を出ていこうとした際、不意にナイは彼等が言った言葉を思い出し、改めて薬棚に視線を向けた。薬棚には暗殺者が任務の前に飲用する毒薬が並べられており、念のためにナイはいくつか回収していく。
「これ、一応は持って行きましょう」
「ええっ!?でも、それ危険な薬でしょ?」
「いや……何かに使えるかもしれないな。お前等もいくつか持っていけ」
「そ、そんな……」
ナイの言葉にゴエモンは賛成し、敵を捕まえた際に尋問に使えるかもしれないと判断し、念のために一人一つずつ持っていく。改めて調合室を抜け出したナイ達は植物園の扉の前に立つと、こちらは鍵が掛けられておらず、中に入る事が出来た。
「ここは……」
「どうやら奴らの毒を生成するための植物を育てているようだな」
「わあっ……す、凄〜い」
「結構綺麗な場所だね……でも、これ全部毒草なんだよね」
「ぷるぷるっ……」
植物園は調合室で見かけた毒草の栽培を行っているらしく、種類別に毒草が花壇に植えられて育成が行われていた。この時にナイは花壇に光り輝く粉末のような物を確認し、不思議に思って指で救って確認すると、ゴエモンがすぐに気づいた。
「そいつは地属性の魔石の粉末だな……土に混ぜて埋めると肥料として利用できると聞いた事がある」
「へえ、そうなんですか」
「俺の妻が花を育てるのが好きでな……これもあいつに教わって……!?」
ゴエモンが話の途中で何かに気付いた様に視線を逸らすと、ナイ達は顔を向ける。彼の視線の先には植物に水をやる人物が存在した。その人間は先ほどの調合室にいた人間と同じく仮面を被っていたが、どうやら女性のようだった。
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