第684話 ここだけは自由

「あれ、どうなってるの?この人達、さっきの悪い人たちと一緒の人たちだよね?」

「さ、さあ……」

「これはいったい……」

「……待て、こっちに来たぞ」



出入口にてあまりの雰囲気に戸惑い、固まっていたナイ達の元に数名の獣人族が集まってきた。最初は気付かれたのかと思ったが、彼等は仮面を取り出すと、ナイ達を通り過ぎて外に出向こうとしていた。



「よう、お前等も仕事帰りか?」

「お疲れさん、ゆっくりと休めよ」

「ていうかそんなもん、外せよ……この中ぐらいは自由なんだからよ」

「えっ……?」



獣人族の者達はナイ達を怪しむ事もなく、仮面を装着してローブを纏うと、そのまま出て行った。その様子を見送ったナイ達は唖然とするが、やはり彼等が白面の暗殺者で間違いない事が証明された。


どうやらこの場所にいる者達は白面の暗殺者である事は確かだが、ナイ達が想像していた暗殺者の人物像と異なり、ここにいる者達はまるで普通の人間のように過ごしていた。



(この人達、本当に暗殺者なのか……?)



酒場で本来の姿でくつろぐ暗殺者達の姿を見てナイは疑問を抱くが、ここへ来た目的を思い出す。この場所の何処かにゴエモンの妻が捕まっている可能性があり、まずは彼女を助け出さなければならない。



「ゴエモンさん、奥さんを探しましょう」

「あ、ああ……」

「でも、何処に居るんだろう?」

「掴まっている人たちの居場所を聞いてみる?」

「ぷるぷるっ?」



ナイ達は仮面を装着した状態のまま出歩く事にした。仮面を装備した状態で動くナイ達を訝しむ者も居たが、流石にローブと仮面を脱いだら正体がばれてしまう。



「おい、お前等どうしてそんなもんを付けっぱなしなんだよ」

「窮屈だろ、さっさと脱げよ」

「気になってこっちの気が紛れねだろうが」

「え、いや……」

「悪いな、すぐに仕事に戻らないといけないんだ」

「何だ……なら仕方ないな」



何人かにナイ達は仮面とローブを注意されたが、ゴエモンが適当に理由を付けて言い返すと、それを聞いた者達はあっさりと退いてくれた。その様子を見てナイ達は戸惑うが、ゴエモンもこんな言い訳で納得してくれた彼等に不思議に思う。



「ねえねえ、ナイ君。この人た……」

「しっ……無駄口を叩くな」

「そうだね、早く仕事に戻ろうか」



モモがナイに話しかけようとしたが、すぐにゴエモンが注意を行う。ここに存在するのは全員が獣人族であり、普通の人間よりも聴覚に優れている者も多い。もしも下手に喋って正体が気づかれた場合は大変な事になってしまう。


早急にナイ達は捕まっている人間を探し出すため、とりあえずは間取りの確認を行う。そしてナイ達が入った扉の他にいくつかの扉が存在し、恐らくは外に繋がる扉が3つと、それとは別に更に地下に繋がる階段があった。



「よし、行くぞお前等」



ゴエモンは地下に繋がる階段に向けて移動し、この時に何人かに見られるが誰にも留められる事はなかった。暗殺者集団の拠点だというのにかなり警備が雑であり、彼等と同じ格好をしているだけで警戒さえ全くしていない。


階段を降りていくと一本道の通路が存在し、いくつもの扉が並べられていた。どうやら暗殺者の部屋らしく、試しにナイは部屋の一つの確認を行うと鍵すらも掛かっておらず、相部屋なのか部屋の中には二段ベッドが二つも並んでおり、一つの部屋に4人が滞在できる様子だった。



「ここは奴等の部屋のようだな……ちょうどいい、何かあったらここで話すぞ。部屋の中なら声を抑えれば気づかれにくいだろう」

「そうですね……」

「よし、先へ進むぞ」

「ううっ……緊張してきたよ」



ナイ達はゴエモンを先頭に先に進み、やがて左右に広がる通路に到着する。右と左にどちらに進むか迷ったが、とりあえずは右側の通路をナイ達は足早で移動を行う。



「こっち側は行き止まりか」

「でも、扉が二つありますよ」



ナイ達が向かった通路は行き止まりだったが、扉が左右に一つずつ存在し、片方は「植物園」もう片方は「調合室」という表札が掲げられていた。それを確認したナイ達はどうするべきか考え、中の様子だけでも確認しておくことにした。


ここで気になるのは調合室であり、恐らくはこの場所で暗殺者が毒などを生成していると考えられた。ナイ達は扉を開く時、慎重に他の者に見られない様に気を付けて開けようとしたが、鍵が施されていた。



「あれ、鍵が掛かってるみたいです」

「まあ、それぐらいはしているだろうな。仮にも調合室だ、やばい薬を作る場所なら施錠ぐらいはするだろう」

「どうにか出来ますか?」

「待っていろ、すぐに解除してやる」



ゴエモンは針金を取り出すと、鍵穴に差し込んでその場で鍵の解除を行う。ナイ達は他の者に気付かれない様に注意しながら扉が開くのを待つと、やがて鍵が開いた音が鳴る。

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