特別編 《歌妖精》
※今回の話は読者様が考案した設定を今作に取り入れました。本編に取り入れるかは分かりませんが、お楽しみください。時系列的にはナイがイリアと知り合ってから間もない頃です。
――ある日、ナイはイリアに呼び出されて彼女からとある素材の回収を頼まれた。イリアは薬師として伝説の秘薬である「
「歌精霊?」
「ええ、文字通りに歌の音色のような鳴き声を発する精霊の事です。ナイさんは見た事ありませんか?」
「う〜ん……精霊自体、見た事は無いんだけど」
「そうですか、山育ちのナイさんなら見かけた事もあるかと思ったんですけど……」
この世界には精霊という存在が実在すると考えられており、実際に精霊に関して様々な伝承が残っている。森の中で大怪我をした人間の前に精霊が訪れ、傷を治してくれた「癒しの精霊」他にも森を焼き払おうとした者の前に現れ、自然を守るために戦う「守護精霊」など、様々な精霊伝説が世界各地で伝えられている。
王国でも精霊の伝説が存在し、その内容というのが森や山などの緑の自然に恵まれた場所には歌のような音色の鳴き声の精霊が暮らしていると伝わっている。最もこの伝承は子供達を喜ばせるための伝承だと思われており、実際に山暮らしのナイも歌精霊なる存在は見た事もない。
「本当に精霊なんて存在するの?」
「存在する事は確かです。昔の時代では精霊は人間社会にも溶け込んでいたそうです。だけど、年月が経過するにつれて精霊の数は減少し、現代では全くと言っていいほどに目撃情報はありません」
「えっ……じゃあ、どうやって探すの?」
「実は冒険者ギルドに問い合わせたところ、ある
「何で?イリアが聞きに行けばいいのに……」
「私は色々と忙しいんです。ほら、報酬は弾みますからちゃっちゃっと言ってきてください」
「分かったよ、もう……」
ナイはイリアの依頼を断り切れずに彼女の代わりに冒険者ギルドに立ち寄り、その冒険者から話を聞く事にした――
――冒険者ギルドにて歌精霊を見かけたという人物はジャックという名前の人物であり、彼は3人の女性冒険者と組んでおり、全員が銅級冒険者ではあるがそれなりの実力者として名が知れ渡っていた。
ギルドに赴いたナイは冒険者集団の
「俺達が見たのは蝶のような羽根を身に付けた小さな小人のような生き物だった。遠目だったからはっきりと見えたわけじゃないけど、羽根から光り輝く鱗粉のような物を出しながら森の近くを飛び回っていたんだ。でも、俺達が近付こうとすると急に逃げ出して……でも、確かに見たんだ!!嘘じゃないぞ!?」
「は、はあっ……なら、何処で見かけたんですか?」
「俺達が見かけたのは王都から北東の方角に存在する森だな。名前は無いけど、そんなに広い森じゃない。けど、あの森にはオークも住み着いているから気を付けた方が良いぞ」
「北東の方角にある森ですね。分かりました、ありがとうございます」
「あ、ああっ……ところで君、冒険者なのか?」
「え?いや、違いますよ?」
「……えっ?」
冒険者でもないナイが自分の話を聞きに来たことにジャックは戸惑うが、歌妖精の話を聞いたナイは彼に礼を告げて早速捜索へ向かう事にした――
――ジャックの情報を頼りにナイはビャクと共に赴き、歌妖精らしき存在を探す。しかし、森の周囲を歩き回ってみたが、結局は歌妖精らしき存在は見つからない。
「う〜ん、ここにもいないか。ビャク、妖精の臭いは分からないの?」
「ウォンッ……」
無茶を言うなとばかりにビャクは首を振り、流石のビャクも出会ったことない妖精の臭いを嗅ぎ分けるのは無理があった。だが、自分が嗅いだことがない臭いならば気付く事が出来るため、ビャクは歩いていると何かに気付いた様に鳴き声を上げる。
「ウォンッ!?」
「え?どうしたの?何か臭うの?」
「スンスンッ……ウォンッ!!」
移動中にビャクは今までに一度も嗅いだことがない臭いを感じ取り、その臭いを辿る。まさか本当に歌妖精を見つけたのかとナイは思ったが、ビャクは森の中にを進む。
やがてビャクが臭いを辿って辿り着いた場所は森の中に存在する美しい泉だった。その泉の周りには見た事もない色合いの花畑が広がっていた。
「うわ、何だここ……綺麗な場所だね」
「クゥ〜ンッ……」
「え?臭いの正体はこの花だったの?じゃあ、妖精の臭いじゃなかったのか……」
森の中に存在する花畑を確認したビャクは残念そうな声を上げ、彼が嗅いだ臭いの正体はこの花らしく、残念ながら妖精の類ではなかった。落ち込むビャクにナイは頭を撫でると、不意に二人の背後から声が聞こえてきた。
『ラララッ♪』
「えっ!?」
「ウォンッ!?」
驚いたナイとビャクは背後を振り返るが、そこには誰も存在しなかった。しかし、二人の前には光り輝く鱗粉のような物が舞い上がり、そして彼等の傍にある大木の枝の上には二人を見下ろす小さな人影が存在した。
結局はナイ達は歌妖精を見つける事は出来なかったが、ナイとビャクは確かに聞こえた声と光り輝く鱗粉を見た事から歌妖精なる存在は実在するのかもしれないと思った――
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