第680話 スライムは人気者

「――こっちだ、しっかりと付いてこい」

「はい……それにしても家の中に抜け道があるなんて」

「この抜け道は奴等にも知られていない。だから外で家を見張っていても気づかれる事はないだろう……最も、仲間がやられた事もすぐに気づかれるだろうがな」



ナイ達はゴエモンの家に存在する隠し通路を抜け出し、三つほどの隣の空き家へと移動を行う。実を言えばゴエモンは家を購入した際に抜け道を密に作っており、元々は情報屋稼業で利用するために作り出した抜け道だという。


情報屋は命を狙われる場合も多く、この抜け道の存在を知っているのは彼と妻だけであった。もしも家にまで何者かが乗り込んできた場合、抜け道を利用して空き家に逃げ込めるように用意していた。


ちなみに二つ隣の空き家に抜け道を繋げた理由はこの場所は廃墟であり、とても比呂が暮らせるような状態ではなかった。それに誰かが家の様子を見張る人間がいた場合、普通の場合は隣の家に潜伏して様子を伺うため、敢えて三つほど隣の建物に抜け道を作っておけば敵に見張られていたとしても気づかれる恐れは低い。



「ううっ……ここ、埃が凄いよ」

「確かにちょっと臭うね……」

「ずっと放置していたからな……だが、我慢しろ」

「ぷるぷるっ(早く進んでっ)」



相当に長い期間放置されていたため、隠し通路はかなり汚れていた。しかし、逆に言えばこの通路には誰も人が通っていない事を意味しており、もしも白面がこの隠し通路を把握していたら待ち伏せされていてもおかしくはない。


通路が埃臭いという事は長い間人間が出入りしておらず、仮に誰かが訪れていた床に溜まった埃のせいで足跡が残ってしまう。今の所はナイ達以外に通路を潜り抜けた痕跡は残っておらず、無事に外に抜け出す。



「よし、付いたぞ……俺が様子を伺う。合図を出すまでお前達はここにいろ」

「分かりました」



地上に繋がる梯子の前でゴエモンは先に登ろうとしたが、ここで思い出したように彼は振り返って問い質す。



「……もしも俺が裏切ってこの通路に閉じ込めたらとは思わないのか?」

「大丈夫ですよ、ここからでも貴方の位置は掴めます。それにきっと……貴方は裏切りませんから」

「ふんっ……」



ナイの言葉にゴエモンは鼻を鳴らし、彼は地上へと抜け出すと外の様子を伺う。白面の暗殺者らしき存在は確認できず、すぐに彼はナイたちにも上がってくるように指示を出す。


廃墟に出たナイ達はとりあえずは埃臭い通路を抜け出して安堵するが、喜んでばかりはいられない。ゴエモンの家を監視する白面の配下が居るはずであり、油断はできない。



「よし、行くぞ……奴等に気付かれる前に拠点へ向かう」

「分かりました」

「でもナイ君……本当に僕達だけで行くの?モモちゃんだっているのに……」

「だ、大丈夫!!こう見えても私、結構強いよ?」

「ぷるぷるっ」



リーナはモモを連れて行く事に不安を抱くが、実は本人の言う通りにモモは武道の心得もある。彼女はかつて壁越しに立っている兵士を気絶させた事もあり、純粋な身体能力は高い。


モモのレベルは別にそれほど高くはないが、彼女は生まれつきに桁違いの聖属性の魔力を肉体に宿しており、聖属性の魔力を利用すれば肉体の身体機能を強化出来る。そのために実際のレベルよりもモモのレベルは高く、足手まといにはならないと本人は約束した。



「出来ればアルト達と連絡を取りたいけど、ゴエモンさんが任務を失敗した事を勘付かれるとまずい。連絡手段があればよかったけど……」

「あ、そうだ。プルリンちゃんに手紙を渡して運んでもらう?」

「ぷるぷるっ?」

「う〜ん……でも、プルリンが一人で移動すると目立つし、それに子供に捕まって玩具にされそうだしな」

「ぷるぷるっ(人気者は辛いぜ)」



仮にモモの言う通りにプルリンに頼んで手紙をアルト達の元へ運ばせようとしても、そもそもアルト達が何処に居るのかも詳しくは分かっていない。恐らくは警備兵の屯所にいると思われるが、もう離れているかもしれないし、プルリンでは意思疎通も難しい。


手紙を咥えているスライムが街中を移動していたらかなり怪しく、子供達が面白半分に捕まえようとして来てもおかしくはないし、子供でなくても他の人間に怪しまれて捕まえようとする輩が現れるかもしれない。


一応はナイ達は待ち合わせ場所を決めており、後でこの街で一番大きな宿屋でアルト達と落ち合う約束をしているが、その宿屋まで移動する時間はなかった。



「これ以上はもたもたしていられん……お前達が来なくても俺は行くぞ」

「待ってください、一人で行くなんて無謀ですよ……それに僕が側にいないと任務も果たせないでしょう」

「ちっ……」



ナイの指摘にゴエモンは言い返せず、相当に焦っている様子だった。だが、この時にプルリンが何かに気付いた様に声を上げる。

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