第673話 その頃のクーノでは……
――情報屋のゴエモンとの接触に成功し、彼から20年前に存在した白面の組織の誕生と崩壊の経緯を聞いたナイ達は彼の家に招かれた。情報屋として生きているゴエモンだが、割と立派な一軒家に暮らしており、今は一人で暮らしているという。
「客が来るのは何年ぶりだろうな……まあ、遠慮なく座ってくれ」
「ど、どうも……」
「わあっ、美味しそうなお菓子!!」
「モモちゃん、まだ食べる気?さっき、あんなにいっぱい食べてたのに……」
ゴエモンが用意した茶菓子とお茶を味わい、ナイ達は改めて彼と向き合う。店ではあれ以上に話をすると何処からか聞かれているか分からず、ゴエモンが場所の移動を提案してきた。
彼には妻が存在し、この街に来たばかりの頃に知り合った女性と結婚したらしい。子供には恵まれなかったが、それでも仲睦まじく暮らしていた。しかし、ある時に強盗に妻が襲われ、そのまま帰らぬ人になったという。
「あの……この壁に立てかけている絵は誰ですか?」
「それは俺の妻の絵だ……美人だろう?」
「えっ!?こ、こんなに若かったんですか!?」
「うわぁっ……凄い美人」
家の中には亡くなったゴエモンの妻の写真も飾られており、その写真を確認する限りではかなりの美人でしかも若い。年齢は20代後半ぐらいであり、少なくともゴエモンがこの街に訪れた時は50〜60代だと考えるとかなりの年齢差だった。
「ああ……それは若い頃の妻の絵だ。ちょっと見栄っ張りでな、昔に画家に描いて貰った絵を貼っているんだ」
「ああ、なるほど……でも、本当に美人ですね」
「良い女だったよ……まあ、とりあえずは茶でも飲め」
ナイ達は促されるままにゴエモンが淹れたお茶を味わうと、改めてゴエモンと向かい合い、情報交換を行う。
「それでゴエモンさん、白面の事をもっと詳しく教えてくれますか?」
「……これ以上に俺が白面に関して知っていることはないぞ」
「何でもいいんです。白面の暗殺者が使う武器とか、どういう風に仕事を引き受けていたのか……」
「生憎だが奴等は特別な武器は一切使っていなかった。それでも普通の暗殺者よりも高い暗殺技術を持ち合わせていたからこそ恐れられていたが……いや、待てよ。そういえばあの仮面は……」
「何か知っているんですか?」
ゴエモンは20年前の白面の暗殺者が身に付けている仮面の事を思い出し、かつて暗殺者が身に付けていた仮面を面白半分で身に付けた者がいた事を話す。
「白面の暗殺者の一人が失敗して標的と共に建物から落ちて死んだという話がある。その時に警備兵が白面の仮面を取り上げたそうだが、警備兵の一人がふざけて白面を自分の顔に付けた事がある」
「そ、それで?」
「その途端警備兵の男は悲鳴を上げて倒れたらしい。最初は何が起きたのか分からずに他の警備兵も戸惑っていたが、慌てて仮面を外すと男は泡を吹いた状態だった。どうやら奴等の仮面には他の人間が取り付けた時のために痺れ薬が塗り込まれていたらしい」
「えっ……でも、そんな物を塗り込んでいたら白面の暗殺者だって困りますよね?」
「そこが奴等の恐ろしい所だ。恐らくは白面の暗殺者は全員が非常に高い毒耐性を所持していたんだろう。だから普通の人間なら触れるだけで身体が痺れて動けない薬でも奴等には効かない」
「へ、へえっ……」
「なら、ナイ君も仮面を被っても平気なのかな?」
「いや、あんなダサいの被りたくないよ……」
白面を身に付けた兵士が痺れ薬で動けなくなったという話を聞いてナイは有力な手掛かりにはならないと思い込んだが、ここである事を思い出す。それは先日に襲い掛かってきた白面の暗殺者は仮面を剥いだ時、髑髏のような入れ墨を顔の何処かに刻んでいた。
ここまでの話だとゴエモンは髑髏の入れ墨に関しては何も話しておらず、白面の暗殺者がそのような入れ墨を掘っていれば彼が話をしないわけがない。ナイはゴエモンに髑髏の入れ墨も尋ねようとした時、唐突に彼は目つきを鋭くさせる。
「……誰だ?」
「えっ?」
「俺の家に誰かが入り込んだ。どうやら二階から侵入してきたようだな……俺が狙いか、それともお前等か?」
「えっ!?」
「大声を上げるな、気づかれるぞ」
ゴエモンの言葉にナイ達は驚き、天井を見上げる。この家は二階建てであり、ゴエモンの推測が正しければ二階の窓から何者かが侵入した事になる。
上の階の人間に気付かれない様にナイ達は武器に手を伸ばすと、ゴエモンは仕込み杖を掴み、相手が仕掛ける瞬間を伺う。しばらくの間は静寂な時を迎えるが、やがて階段と一階の窓から人影が出現してゴエモンは注意を行う。
「来るぞ!!」
「くっ!!」
「わあっ!?」
「モモちゃんは身体を伏せて!!」
「ぷるるんっ!?」
次の瞬間、窓が割れて階段から何者かが降りてくる音が鳴り響き、即座にナイ達は武器を構える。この時にナイは大剣だと室内では戦いにくいため、刺剣を装備した。
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