第672話 伝説の存在「シャドウ」

「シャドウ、かい……あいつが動き出したのか」

「シャドウ……実際に相対した事は無いが、名前だけは知れ渡っている存在か」

「うちの所のルナがシャドウらしい奴を見かけたと言っていたけど、全身が黒い靄のような物で覆われていて男か女かも分からなかったそうだよ」

「あのシャドウと対峙したんですの!?それだけでも凄いですわね……」



シャドウという存在はこの場に存在する全員が知っているが、その姿をまともに見た人間は一人もいない。しかし、彼が数十年前から活動しており、現在の裏社会を支配しているのはシャドウだと言われている。


イゾウはシャドウの相棒として活動していたが、シャドウは定期的に相棒を変えており、情報屋のネズミによれば王妃が死ぬ前はリョフと呼ばれる冒険者が彼の相棒を務めていたという。


リョフが消えた後はシャドウは何人か相棒を変えたが、近年ではイゾウを頼りにしていた。しかし、そのイゾウも死亡した今では現在は単独で行動しているか、あるいは新しい相棒を探しているのかもしれない。



「まさか、その突針をとやらを檻の中に撃ち込んだのはシャドウと呼ばれる存在か?」

「そこまでは断言できない。しかし、イゾウの遺品を持つ者がいるとすればシャドウ以外にはあり得ない」

「どうしてあり得ないと言い切れるんだい?」

「俺もこの国へ来てから裏社会に関わる人物と会い、話を聞いてみたがシャドウとイゾウは裏社会の人間からも敬遠されていました。奴等は誰とも組まず、仕事を行う時も自分達だけで動く……ならばイゾウが心を許せる相手はシャドウのみでしょう」

「なるほどね……けど、それだとシャドウがこの突針を撃ち込んだのかい?」

「そこまでは分かりません。シャドウ自身が直々に赴くとは考えにくいが、現場に居た人間の話だと怪しい者は見かけなかったというが……」

「そういえばうちのルナも気になる事を言っていたね……シャドウの奴はいきなり現れて、何処かに消えたとか……」

「まさか……シャドウは転移魔法の使い手ですの!?」



ルナが相対したシャドウは唐突に消えた事をテンが話すと、ドリスは驚愕の表情を浮かべ、他の者達にも動揺が走る。転移魔法とは聖属性の魔法の一種で一瞬にして別の場所て移動を行う魔法である。


この転移魔法は聖属性を得意とする魔術師でも習得までには数十年の時を要すると言われ、少なくとも歴史上で身に付けた人間は数名しかいない。しかも転移魔法を発動する場合は事前に様々な準備を行わなければならず、シャドウがその転移魔法の使い手とは考えにくい。



「流石に転移魔法という事はないだろうけど、シャドウの奴は特別な力を持っている。姿を黒い靄のように覆われているとしたらきっと闇属性の魔術師だろうね」

「闇属性の魔術師……となると死霊使いか?」

「死霊使い……それが事実ならば厄介な相手だな」

「だが、死霊使いなら色々と納得したよ。あの時、イゾウの奴があんな姿になって蘇ったのも……」

「……シャドウの仕業という事か」



テンの説明に対してシノビはイゾウの変わり果てた姿を思い出し、拳を握りしめる。別にイゾウとは特別に仲が良かったわけではない。むしろお互いに嫌い合っていたといってもいいぐらいだ。


しかし、イゾウの変わり果てた姿を思い出したシノビはシャドウに対して何も思わないわけではなく、裏切り者と言ってもかつての同胞をあのような醜い存在に変貌させた事にシノビは静かな怒りを抱く。



「シャドウが死霊使いだろうとなんだろうと今はどうでもいい事だろう。肝心なのはシャドウの行方が掴めない事だ。今まで何度も我々はシャドウを捕まえようとした、だが結果は奴の手掛かりさえ掴めていない」

「王妃様の死にもあいつが関係しているかもしれないんだろう……もしも見つけたらあたしの手でぶった切ってやる」



テンはシャドウに対して憎々しく思い、情報屋のネズミの話が事実ならばリョフはシャドウの相棒であり、ジャンヌが死ぬ原因を作ったのはシャドウという事になる。


どんな目に遭おうとシャドウを討つ事をテンは誓い、必ず奴が自分の前に現れた時は始末すると彼女は心に誓う。その気持ちは聖女騎士団の人間ならば誰もが考えており、シャドウは数多くの人間から恨みを買っていた。



「白面とシャドウも何か関係があるかもしれませんね……シノビ、調査をお願いできますか」

「御意」

「……くれぐれも無理をしては駄目ですよ」

「承知した」

「ふんっ……仲が良い事だな」



リノがシノビに調査を命じる一方、彼女はシノビを案ずる発言をするとバッシュは微かに笑い、その言葉にリノは頬を若干赤く染め、シノビは無表情を貫くが僅かに口元が引きつっていた――

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