第668話 ゴエモンの実力

「その手紙……何処で手に入れた?」

「テンさんはご存じですよね?聖女騎士団の副団長を務めていた……」

「ああ、まさかお前……テンのガキか?」

「えっ!?いや、違いますけど……」

「そうか……大剣なんて使っているからあいつのガキかと思ったんだがな」



ゴエモンの指摘にナイは慌てて否定するが、彼から言わせれば人間の中で大剣を扱う様な剣士などテン以外には心当たりはなく、ナイが二つの大剣を所持していたので彼女の息子と勘違いした様子だった。


実際に人間の中で大剣を扱う剣士は非常に少なく、そもそも大剣を扱う様な剣士は大抵は巨人族ぐらいである。彼女の事を思い出したゴエモンは昔を懐かしむように語り出す。



「お前はテンが大剣を使う理由を知っているか?」

「え、いや……聞いた事がないです」

「あいつはな、ガキの頃から剣を扱っていたんだ。だけど、小さい子供用の剣なんて滅多に手に入る代物じゃないからな。だから小さい頃からあいつは大人用の剣を振っていた。そのせいで身体がでかくなると普通の剣では小さく感じて大剣に落ち着いたわけだ」

「へ、へえっ……そうなんですか」

「……こんな事も知らないとなると、お前さんがテンと知り合いかどうかも怪しいな」



テンが大剣を扱う由来を始めて知ったナイは驚くが、そんなナイに対してゴエモンは本当に彼がテンの知り合いなのかを疑い、ここで彼はナイに視線を向ける。



「……只者じゃなさそうだな。少なくとも俺の隠密を見破る限り、何か力を隠しているな……まさか心眼、か?」

「っ……!?」

「当たりか」



ナイが一瞬動揺したのを見逃さず、彼が心眼を会得しているのを見抜いた。ゴエモンは情報屋だと聞いていたが、実際に相対してみるとナイは彼がただの情報屋とは思えず、武芸にも精通する人間だと確信を抱く。



(この人、只者じゃない……)



最初にナイを見た時点でゴエモンは彼が普通の人間ではない事を見抜き、しかも心眼まで会得している事を見抜いた時点で彼も常人とはかけ離れた存在だと思い知らされる。改めてゴエモンはナイと向かい合うと、彼を見つめた。


その瞳に見つめられるだけでナイは自分の全てを見透かされてるような気がするが、この時にゴエモンは壁の傍に立てかけていた杖に手を伸ばす。



「坊主、お前がテンの知り合いというのなら……証拠を見せろ」

「えっ?」

「言っておくが、この距離でも俺はお前を仕留められるぞ」



ゴエモンは杖を握りしめると、どうやら仕込み杖だったらしく、刃を引き抜く。それを見たナイは驚くが、ゴエモンは本気でナイを切るつもりなのか殺気を滲ませる。


下手な返事をすれば本当にゴエモンが切る気だと知ったナイは冷や汗を流す。どうすれば自分がテンと知り合いであることを証明できるのか、必死にナイは考えを巡らせた。



(どうすればいい?この人に下手なこと言えない、でも何を言えば……)



テンに関する情報の中でナイは何を話せばいいのか考えた時、この時に先ほどゴエモンに言われた言葉を思い出す。それは大剣を扱う剣士は少ないという言葉であり、ナイは無意識に背中の旋斧に手を伸ばす。



「……何の真似だ、俺とやる気か?」

「いやっ……証拠を見せます」

「何?」



背中の大剣に手を伸ばしたナイにゴエモンは警戒するが、そんな彼に対してナイは背中を向ける。この時にゴエモンは驚き、ナイの背中が異様なまでに大きく見えた。



(馬鹿な……何だ、このガキは?)



ナイは年齢の割には小柄であり、老人であるゴエモンよりも下手をしたら身長は小さい。しかし、背中を向けた瞬間にゴエモンはまるでナイの肉体が巨人族のように膨らんだように感じられ、冷や汗を流す。


この時にナイは旋斧を地面に降ろすと、岩砕剣を手にした。岩砕剣を選んだのは旋斧よりも重量があるからであり、ゴエモンに背中を向けた状態でナイは構えた。



(この構えは……!?)



ゴエモンは大剣を両手で構えたナイと、若かりし頃のテンの姿が被さり、ここでナイはテンから教わった「大剣の基礎」を思い出す。大剣を扱う時は腕だけの力で振るのではなく、全身の筋力を生かして振り下ろす。



「はあああっ!!」

「っ……!?」



何もない場所に向けて大剣を空振りしただけにも関わらず、あまりの剣圧で周囲に軽い衝撃波が走り、それを目にしたゴエモンは目を見開く。ナイが岩砕剣を振り下ろした姿とテンが退魔刀を振り下ろす姿の幻影を見た彼は無意識に杖を落とす。



「……これが、証拠です。大剣の扱い方はテンさんから教わりました」

「……ああ、どうやら嘘じゃないようだな」



ゴエモンに対してナイは振り返ると、武器を手にした瞬間にナイの雰囲気が一変し、まるで大型の猛獣と遭遇したかのようにゴエモンは迫力を感じた。そんな彼にゴエモンは内心冷や汗をかき、話を聞く事にした――

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