第669話 ゴエモンの情報

――改めてナイは自分とテンの間柄を話すと、ゴエモンは彼の言う事を信じてくれた。先ほどにナイが見せた大剣の扱い方はテンとそっくりであり、赤の他人がテンの技を扱えるはずがない。


ゴエモンは場所を移動すると、先に甘味処で待ち合わせしていたモモとリーナと合流し、とりあえずは他の人間に話を聞かれないように一番奥の席で向かい合う。



「なるほど……テンの奴が引退した後は宿屋を経営して二人のガキを育てているという話は聞いていたが、まさかお前さんのように可愛い娘だとはな」

「えへへ……」

「で、そっちの娘がテンが育てているもう一人の子か?」

「あ、僕は違います。僕の名前は……」

「冗談だよ、噂はよく聞いているぜ……黄金級冒険者のリーナ」

「えっ!?」



リーナがゴエモンの質問に否定する前にゴエモンは自ら彼女の素性を知っている事を伝える。情報屋という生業のため、彼は有名な冒険者は全員それぞれの特徴を掴んでいる事を語る。



「アッシュ公爵の一人娘にして公爵家に伝わる魔槍「蒼月」の使い手……史上最短で黄金級冒険者にまで昇格を果たした冒険者だろう。こんな事は一般人も知っている事だ」

「そ、そうなんですか?」

「だが、この情報を知っている奴は滅多にいないな。あんたがまだ冒険者に成り立ての頃、幼女趣味の依頼人に騙されそうになって相手を全治一か月の怪我にさせ……」

「わああっ!!そ、そういうのは話さなくていいですから!!」



昔の仕事の失敗を語り掛けようとしたゴエモンに対して慌ててリーナは口を挟み、子供の頃の彼女がどんな失敗をしたのかとナイ達は思ったが、ゴエモンは本題へと移った。



「まあいい、それよりもお前等が俺に会いに来た目的はなんだ?」

「あ、実は……白面の事を知っていますか?」

「……王都で最近事件を引き起こした連中の事を言っているのか?それとも、20年前に存在した奴等の事か?」



白面という単語を聞いただけでゴエモンは顔色を変え、彼の表情からどうやらナイは白面に関する情報を知っているのだと見抜き、単刀直入に伝える。



「両方です。まず、王都に現れた白面に関する事は何か知っていますか?」

「……いや、俺も噂程度しか聞いていないな。なにしろ王都は俺の管轄外だからな」

「なら、20年前に存在した白面の事を聞かせてくれませんか?テンさんは闇ギルドに所属する暗殺者集団としか知らないみたいですけど……」

「暗殺者集団?あいつらが?」



ナイの言葉にゴエモンは呆気に取られた表情を浮かべ、その反応からテンの情報は間違っているのかとナイ達は思ったが、ゴモエンは昔を思い出すように窓の外を眺め、語り出す。



「あいつらはただの暗殺者集団じゃない。奴等の正体は――」






――今から数十年前、王都に存在する闇ギルドの中に「白面」という名前の組織が誕生した。白面は現在の国王が即位する前から存在し、ゴエモンの記憶が正しければテンさえも生まれる前の時代に誕生した事になる。


白面に所属する人間全員が謎の白い仮面を纏っており、彼等全員が暗殺者として一流の技能を持ち合わせていた。裏社会でも白面は特異な存在であった事は間違いない。


かつて闇ギルドの中には唐突に出現した白面なる組織に反発を抱き、白面を始末しようとする人間もいた。しかし、結果から言えば白面に手を出した組織は逆に返り討ちに合い、いくつもの組織が壊滅に追い込まれた。


複数の闇ギルドが白面によって潰された事により、当時は闇ギルドの中でも最大の規模を誇る「黒虎」という組織の長が直々に白面と交渉した。今後はどの闇ギルドも白面には手を出さない事を条件に、白面も今後は彼等から暗殺の仕事を引き受けるようになったと言われている。


当時の白面は優れた暗殺者を何十人、下手をしたら何百人も従え、闇ギルドは排除したい人間が居た場合は白面に依頼を申し込み、彼等に暗殺させた。いつしか何処の闇ギルドも白面を利用して暗殺稼業を執り行う。




時が経過するにつれて白面は組織を拡大化させ、遂には闇ギルド内でも最大規模を誇る黒虎に並ぶ程に大きくなったと言われている。しかし、ここで黒虎の長は危機感を抱き、このまま白面が増長すれば自分達の立場が危うくなる。




黒虎の長は秘密裏に他の闇ギルドと結託し、彼等は当時は世界最強の王国騎士団と謳われた「聖女騎士団」その団長の「ジャンヌ」の依頼を行う。この依頼が切っ掛けで白面は聖女騎士団と激突し、逆に壊滅の危機に陥ったという――

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