第667話 人探し

「――ねえねえ、ナイ君。ここにテンさんの知り合いがいるの?」

「うん、そのはずなんだけど……手紙にはここで暮らしているとしか書いてないから、探すのは苦労しそうだね」

「名前は……ゴエモンさんだよね。変わった名前だから、知っている人がいたらすぐに分かると思うけど」

「ぷるるっ」



アルトと一旦別れたナイ達は先にテンからの用事を済ませるため、ゴエモンの捜索を行う。手紙にはこのクーノの街で情報屋として暮らしているとしか書かれておらず、彼が何処に住んでいるのかもわからない。


テンに送り込まれた手紙も大分古い物のため、ゴエモンが今もこの街に暮らしているかは分からない。だが、他に手がかりがない以上はここで彼を探し出し、20年前に存在した白面の組織の情報を聞き出す必要があった。



「あの、すいません……ゴエモンという人は知っていますか?」

「……なんだい、あんたら。客じゃないなら帰ってくれ」

「あ、すいません……」



露天商を行う女性にナイは話しかけるが、ゴエモンの事を尋ねても何も知らないのか答えてくれず、仕方ないので他の人間にも尋ねてみるが、今の所は誰も知らなかった。



「う〜ん……困ったな、ゴエモンさんの事を知っている人はいないみたい」

「もう歩き疲れたよ……ちょっと休まない?」

「そうだね、昨日から色々とあったし……あっ、そこの甘味処で休まない?」

「賛成!!プルリンちゃんも休みたいよね?」

「ぷるぷるっ……」



モモに抱かれていたプルリンも肯定するように頭の二つの角のような触手を動かし、それを見たナイは確かに身体を休めるのも大事かと判断して休憩を行おうとした時、不意にナイは視線のような物を感じた。



「っ……!?」

「ナイ君?どうかしたの?」

「いや……」



確かに誰かに見られているような感覚を味わったナイは周囲に視線を向けるが、特に怪しい人物は見当たらない。しかし、ナイの鋭い直感が誰かが自分を確かに見つめていると思い、何者が自分を見ているのかと注意深く周囲を観察する。


この時にナイは少し離れた建物の陰から人影を発見し、それを確認したナイは追いかける前に他の二人に声を掛けた。



「御免、先に行ってて!!後で必ず行くから!!」

「あっ、ナイ君!?」

「何処へ行くの!?」



ナイは二人を先に行かせると、自分だけで人影の見えた場所へ向かう。二人を置いて行ったのは一人の方が動きやすく、遠慮せずに全力で動く事が出来る。


人影が見えた路地を確認すると、奥の方で白髪頭の老人が歩いている姿を発見し、彼が自分を見ていた相手なのかと思ったナイは後を追いかけた。



「待ってください!!貴方、まさかゴエモンさんですか!?」

「…………」



老人は答える様子はなく、黙って走り出す。それを見たナイは彼に追いつくために駆け出すが、老人は曲がり角を曲がった時、姿を一瞬だけ見失ってしまう。



「待ってくださ……えっ?」



急いでナイが曲がり角に追いつき、老人の後を追おうとしたが、曲がり角の先は行き止まりだった。ナイが辿り着いたのは建物に囲まれた敷地だけであり、何処かに隠れられるような場所はない。



(消えた!?いや、これは……違う!!)



敷地内には誰もいないと思ったナイだが、ここで彼は違和感を抱き、心眼を発動させた。かつてナイは「疾風のダン」という傭兵と戦った事があり、そのダンという男は「隠密」の技能を極めた腕利きの傭兵だった。


隠密の技能は極限まで磨いた場合、まるで透明人間のように存在感を完全に消し去り、普通の人間ならば姿を捉える事も出来ない。だが、ナイは心眼を発動させ、敷地内に存在するはずの人物を探し出す。



「……そこに居ますね」

「ほう……気付いたか、大した奴だ」



ナイは建物の壁に背中を預けてパイプを口にする老人の姿を遂に捉え、老人は大して驚いた様子もなく、やがて隠密の技能を解除したのか姿をはっきりと捉えられるようになった。


ナイの前に現れた老人は年齢は70〜80ぐらいであり、右足は金属製の義足を装着していた。まるで一流の武人のように只者ではない雰囲気を纏い、そんな彼にナイは冷や汗を流しながらも尋ねる。



「貴方が……ゴエモンさんですか?」

「……その質問を答える前にお前の正体を話せ。自分の名前ぐらい名乗ったらどうだ」

「あっ……ごめんなさい、そうですよね。僕の名前はナイと言います」

「ほう、思っていたよりも素直なガキだな」



ゴエモンはナイがあっさりと謝罪して名乗った事に意外に思ったのか、彼はパイプに火を灯しながらも自分も名乗り上げた。



「察しの通り、俺の名前はゴエモンだ。それで、俺に何の用だ坊主?」

「あの……この手紙、貴方が書いたものですよね」



ナイはゴエモンを名乗る老人に手紙を差し出すと、老人は手紙に視線を向けて少し驚いた表情を浮かべた。

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