第666話 クーノ

「子供達の様子はどうだい?」

「皆、眠ってるみたい……多分、薬で眠らされているよ」

「酷い恰好……でも、怪我をしている子はいない」

「奴隷として売り込むんだ……怪我をした状態だと売れないと判断したんだろう」

「そんな……」



馬車の中には檻が存在し、そこには十数名の子供が眠らされていた。どうやら全員が薬で眠らされているらしく、大人の姿は見えない。




――男達を脅して問い質した結果、人間の奴隷の中では大人よりも子供の方が人気が高いらしく、下手に大人を連れ出そうとすると抵抗される危険性がある。それに幼い子供の方が大人よりも物覚えが早いという事もあり、奴隷として育て上げるには都合がいいらしい。


理由を聞いた時にナイは吐き気を催し、他の者達も男達の非道な行動に怒りを抱く。その一方でアルトは彼等が誰の依頼で他国に奴隷を売り渡そうか問い質すが、男達は依頼人の素性を全く知らないと語る。


彼等はクーノに暮らす小悪党だが、ある時に彼等の前に得体の知れない仮面を纏った人物が現れ、子供達を攫って国境付近まで運ぶように指示を出す。最初は男達も訝しんだが、金払いが良いので彼等はすぐに従う。


攫う子供に関してはクーノに暮らす子供だけではなく、時には他の街から送り込まれた人間の子供を運ぶ事もあった。どうやらクーノで暮らす悪党以外にも他の街で同様の手口で仮面の人物は子供達を攫っているらしく、誘拐した子供達を次の街に送り込み、最終的にクーノの悪党に引き渡した後は国境付近まで彼等に運ばせていたらしい。


子供達を誘拐する仕事は男達は今回が初めてではなく、もう大分前から同じことを繰り返していた事を白状する。その話を聞いたアルトは男達が子供達を何処まで連れて行くのかを問い質すと、国境付近に存在する小さな村まで運ぶのが彼等の役目だという。




「――彼等の話によると、これまでに攫われた子供達は獣人国と王国の領地の境目に存在する村に運んでいたらしい。だけど、ここで馬車の一台の車輪が壊れて修理していた所、僕達に見つかったようだ」

「獣人国と王国の領地の境目……という事は、子供達が売買されているのは獣人国ですか!?」

「ああ、獣人国では以外の奴隷は認められている。特に人間の奴隷は人気があるそうだよ。それが王国と獣人国が争う理由の一つでもあるけどね」

「そんな……」



獣人国では人間の奴隷が認められており、王国で攫われた子供達は獣人国に運び込まれ、奴隷として売り出される。つまり、今回の一件は獣人国の奴隷商人が元締めであり、悪党が接触した依頼人に関しても獣人国の奴隷商人である可能性が高い。


だが、ここで気になるのは悪党に依頼していた相手というのが「仮面」を装着していた事であり、先日に王都の街中で王国騎士団を襲撃した暗殺者集団も全員が仮面を装着した「獣人族」だった。



「獣人族に仮面……そして今回の人間の子供を攫うように指示を出した仮面の依頼人、気になる事ばかりだね」

「ま、まさか……依頼人の正体は白面?」

「それはまだ分からないよ。だが、その可能性も否定はできない……とりあえず、クーノに急いで戻ろう。子供達を探している親も居るだろうし、こいつらを警備兵に突き出そう」

「そうだね……」



アルトの言葉にナイ達は賛成し、急いでナイ達はクーノへ向かう事にした――






――それから時間は掛かったが、ナイ達はクーノへ捕まえた悪党と救助した子供達を連れてくると、すぐに捕まった子供達の親は見つかった。どうやら攫われた子供達の親は警備兵の元に連日訪ねていたらしく、子供達が戻って来た事を知るとすぐに迎えに来た。


幸いにも子供達の親は全員見つかったが、悪党たちに関しては警備兵が捕まえ、牢屋に送り込む。そして彼等の尋問が行われたが、結局はアルトが引き出した情報以上の有力な情報は手に入りそうになかった。



「申し訳ありません、王子様……どうやら奴等、本当に依頼人の事は何も知らないようです」

「奴等がこの街に居た時に利用していた住居も調べたところ、証拠になるような物も消えていました」

「そうか……こうなる事を予想して先に手を打っていたか」



どうやら盗賊達が捕まった情報を聞き出したらしく、彼等が暮らしていた建物には既に何者かが入り込んだ痕跡が発見され、依頼人との繋がりを証明する証拠は残されていなかったという。


しかし、盗賊達が捕まった事を知ってからそれほど時間も経過しないうちに彼等の住処から証拠を持ち去った辺り、依頼人はまだ街中に残っている可能性が高い。すぐにアルトは城壁の警護を増やし、怪しい人物を探し出す様に指示を出す。その一方でナイ達はここへ来た本来の目的を果たすため、街中の探索を行う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る