第665話 巨鬼殺しのナイVS双棒のテツ

「くたばりやがれっ!!」

「うおおおおっ!!」



金属音が激しく響き渡り、ナイとテツはお互いに棍棒と大剣を叩き込む。刃と棍棒が触れる度に火花が散り、金属音が周囲に鳴り響く。あまりの戦闘の凄さに他の者も立ち入る事が出来ず、その光景を唖然とした表情で見つめる。


テツは先ほどから全力で挑んでいるにも関わらず、その攻撃に対してナイは冷静に全て対処していた。相手と自分の腕力はであり、流石に名前が知れ渡る程の傭兵なだけはあって決して弱者とは言えない。


しかし、これまでにナイが戦ってきた相手は圧倒的な力を持つ存在ばかりであり、昨日に戦ったサイクロプスや狼男と比べれば全く脅威を感じない。それどころかナイは余裕さえあった。



(この人、力は確かに強いけど……動きが雑で読みやすい!!)



腕力だけなれば巨人族の中でもかなり強い部類だが、テツの場合は力任せの攻撃しかしておらず、そこに技術は感じられない。思い切り振り被って攻撃をする、それ以外の攻撃手段はないテツに対してナイは冷静に剣で相手の攻撃を受け流す。


この数週間の間はナイは自分よりも格上の剣士達から指導を受けており、そのお陰で剣の技量も格段に上昇していた。ドリスの指導で学んだ観察力を生かしてテツの攻撃を先読みし、正面から受けるのではなく、相手の攻撃を受け流すように捌く。



(戦える……剛力や強化術無しでも十分に戦える!!)



これまでの戦いを通してナイ自身の肉体も鍛え上げられ、戦闘技術も磨かれていた。そのお陰でナイは巨人族の猛者を相手に互角以上に戦い、隙を見てテツの右足の脛に蹴りを叩き込む。



「ここだっ!!」

「うぎゃあっ!?」

「せ、先生!?」



脛を蹴りつけられたテツは悲鳴を上げ、まるで自分と同じ巨人族に蹴りつけられたかのような衝撃を受け、耐え切れずに膝を着く。その隙を逃さずにナイは二つの大剣を振りかざし、テツが握りしめていた棍棒を弾き落す。



「だああっ!!」

「ぐあっ!?」



棍棒を弾き飛ばすとナイは無防備になったテツに対して突っ込み、この際に瞬動術を発動させ、テツの顔面に目掛けて膝蹴りを叩き込む。



「これで……終わりだ!!」

「ぶふぅうううっ!?」

「せ、先生ぃいいっ!?」



ナイの渾身の一撃を受けてテツの顔面は凹み、派手に鼻血を噴き出しながら倒れ込む。その光景を見た他の悪党たちは愕然とした――






――その後、テツ以外の悪党もリーナとナイによって全員が倒されると、やっと目を覚ましたミイナとヒイロが外の状況に気付き、二人は自分達の意識が朦朧としている間に戦闘が終わっていた事を知る。



「す、すいません!!肝心な時に眠っていたなんて……」

「ごめんなさい」

「ううん、別に気にしなくていいよ。僕とナイ君だけでどうにかなったし……」

「わあっ……この人達が盗賊さん?私、盗賊さんを見たの二回目だよ〜」

「ぷるぷるっ……」

「ううっ……ち、ちくしょう。何なんだよ、お前等……」



自称奴隷商人の男を含め、全員の捕縛が終了すると改めてナイ達は彼等をどうするべきか話し合う。とりあえずは彼等の正体を問い質す。



「それで、君達は奴隷商人だったね。その辺の事を詳しく教えて貰おうか」

「けっ、誰がてめえみたいなガキに……うわっ!?」

「グルルルッ……!!」

「言葉には気を付けた方が良いよ。このビャク君は悪党には容赦しないからね」



悪態を吐く奴隷商人の男に対してビャクが近付いて睨みつけると、それに対して奴隷商人の男は震え上がり、素直に白状した。




――男達の正体は予想通りに盗賊であり、この国で捕まえた人間を秘密裏に他国に送り込んで売却しているらしい。王国では奴隷制度は廃止されているが、他国では未だに奴隷制度がある国が存在し、そこに捕まえた人間を売り捌いているという。


当然だが男達の行為は許されるはずがなく、王国では人身販売に手を染めた者は身分に関係なく、監獄に送り込まれる。運が良くても終身刑、運が悪ければ即座に処刑される程の重罪である。


しかし、ここにいる男達はあくまでも自分達は運び屋であり、直接的に人間を捕まえて奴隷を売り捌いているわけではないと告げる。自分達の仕事は奴隷となる人間を預かり、それを他国に送り届けるのが仕事だと告げた。




「ま、まさかあんたが……いや、貴方様が王子だと知らず、ご無礼な態度を取りました。でも、許してください!!俺達はあくまで運び屋として仕事をしただけで……」

「言い訳にもならないな。運び屋だろうが何だろうが、何の罪もない人間を捕まえ、それを他国に売り渡す……そんな事が許されるはずがない。君達は罪を償わなければならない」

「そ、そんな!?捕まったら殺されるか、あるいは死ぬまで監獄生活なんでしょ!?そんなの嫌だ!!」

「……君達に捕まって他国に売り渡された人間の方が可哀想だよ」

「ねえ、見つけたよ!!この馬車に捕まった子がいたよ!!」



男達は必死に許しを請うがアルトは決して彼等の言葉は聞き入れず、話し合っている間にもリーナは捕まっていた「奴隷」にされかけた人間の子供を発見した。

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