閑話 《王妃の形見》

――イリアの製作した「魔力回復薬改」のお陰で体調が復帰したマホだが、完全回復したわけではない。あくまでも彼女の症状は一時的に抑えられたに過ぎず、完治したとは到底言えない。


しかし、それでも立ち上がれる程に体調が戻ったマホの元に国王が直々に訪れる。彼はベッドに横たわるマホの隣に座ると、頭を下げた。



「マホ……お主には本当に苦労を掛けたな」

「気にするでない。そんな事よりも国王ともあろう御方がそう簡単に頭を下げてはいかんぞ」

「ここにはお主と儂しかおらん、誰も咎める者はおらん」



二人きりになるとマホは敬語を辞め、国王はそんな彼女に苦笑いを浮かべる。まだ彼が国王の座に就く前からマホには色々と世話になっており、見かけは若くても国王よりもマホは数十年、もしかしたらそれ以上の時を生きているかもしれない。


国王が子供の時からマホの外見は変わっていないが、昔の方が迫力があった。しかし、ある時を境に彼女は迫力が消え、別人の様に変わってしまう。




――王妃が死んだ日、マホは強大な敵と遭遇してそれと戦った。その結果、彼女は魔術師として致命傷な怪我を負い、しかも未だに後遺症が残っている。




現在のマホは魔術師でありながら魔力を回復する肉体の機能が封じられているに等しく、無理に魔法を使いすぎると彼女は死んでしまいかねない。魔力とは謂わば生命力と言っても過言ではなく、これ以上にマホが魔法を酷使すれば最悪死ぬか、良くても寿命を削る。


今の所は持ち直したとはいえ、マホも自分の命がもう長くはない事を悟っていた。しかし、彼女はまだ役目が残されており、国王に尋ねた。



「ジャンヌの魔剣は……今は何処に保管しておる」

「……炎華と氷華か」



ジャンヌの話題を口にすると国王は顔色を変え、神妙な表情を浮かべて保管されている場所を話す。この二つの魔剣は王妃の墓標と一緒に残そうとしたが、マホが回収を行う。



「世界異変により、国同士の関係が乱れておる。近い将来、大きな戦争が起きるかもしれん……それに脅威は決して国だけではない、世界の混乱に乗じて奴等も動き出すかもしれん」

「闇ギルド、か……」



マホの言葉に国王は顔色を変え、愛する妻を死に至らしめた存在を思い出す。誰よりも強いと信じていた最愛の妻は闇ギルドの放った刺客によって死に至った。その忌々しい過去に彼は拳を握りしめる。



「炎華と氷華は……ジャンヌだからこそ扱えた。正直、儂にはあの魔剣を使いこなせる人間がいるとは思えん」

「どうかな……儂はジャンヌの仕事、この国中を歩き回り、様々な人間と出会った。その中にはジャンヌにも劣らぬ可能性を持った子供もおったな」

「まさか、あの少年の事か?」



国王はマホの言葉を聞いて「ナイ」の存在を思い出し、確かにナイは普通の少年ではない。しかし、彼がジャンヌの魔剣を扱えるとは思えない。第一にナイは既に二つの魔剣を所持しており、歴史上で2つ以上の魔剣を使いこなす人間など誰一人としていなかった。


だが、マホが言いたいのはナイの事だけではなく、彼女はこれまでの旅路で出会った若者たちの事を思い返し、国王に語り掛ける。



「炎華と氷華の継承者は必ず現れる……もしかしたら、既に儂等はその人物を知っておるかもしれん」

「そ、それはいったい誰じゃ?」

「それを確かめるためにも……やらなければならんことがある」



窓の外を眺めながらマホは昔の事を思い出し、かつて「双剣の剣聖」と謳われたジャンヌを思い返す。彼女は天才だった、それは紛れもない事実だが、今の時代にも彼女に匹敵する存在がいると確信を抱いていた――

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