第660話 狼男《ワーウルフ》
「グルルルッ……!!」
「ガアアッ!!」
「ビャク、落ち着け……大丈夫だから」
「……何だろう、このコボルト亜種。雰囲気が少し変だよ?」
「こいつは……!?」
ナイ達の前に現れたコボルト亜種に対してビャクは唸り声をあげ、それをナイが落ち着かせる。しかし、リーナはコボルト亜種を一目見ただけで様子がおかしい事に気付き、この時にアルトは驚愕の表情を浮かべた。
観察眼を発動させたナイもコボルト亜種を一目見た時から違和感を感じ、全身が黒色の毛皮で覆われたコボルト亜種だが、何故かこれまでに遭遇した個体とは異なる点がある。
コボルト亜種と思われる魔獣は月の光を浴びた途端に身体が徐々に膨れ上がり、やがて4メートルを超える体躯へと変身を果たす。その姿を見てナイ達は驚き、通常のコボルト亜種にこのような能力はない。
「グオオオッ!!」
「な、何こいつ!?」
「まずい、そいつはコボルト亜種なんかじゃない!!魔人族の
「狼男……!?」
アルトの言葉を聞いた時、ナイは一瞬だけ彼に視線を向けてしまう。その隙を逃さずに狼男はコボルト亜種を上回る速度でナイの元へ近づき、腕を振り下ろす。
「ガアアッ!!」
「ナイ君、危ない!?」
「くぅっ!?」
咄嗟にナイは旋斧を構えて狼男の攻撃を防ぐが、想像以上に重い一撃に耐性を崩しかける。昼間に遭遇したサイクロプスの攻撃にも勝るとも劣らず、更にサイクロプス以上の動作で狼男はナイに目掛けて攻撃を繰り出す。
「ウガァッ!!」
「うわっ!?」
「させないっ!!」
今度は爪を刃物の如く利用してナイに突き刺そうとしてきた狼男に対し、咄嗟にリーナは蒼月を繰り出す。結果から言えば狼男は身体を反らしてリーナの攻撃を回避した事でナイへの攻撃は中断したが、巨体でありながら身軽な動作で後方へ跳ぶ。
空中で身体を回転させながら狼男は岩石の上に降り立つと、両腕を広げて徐々に牙と四肢の爪を伸ばしていく。その光景を見てナイ達は冷や汗を流し、即座にアルトが狼男の生態を告げた。
「そいつはコボルトの上位種、
「コボルト上位種!?」
「来るよ、みんな気を付けて!!」
「ウガァッ!!」
アルトの言葉を聞いてナイは初めてコボルトにも上位種が存在する事を知り、狼男はナイ達に目掛けて飛び込み、両腕を振り下ろす。咄嗟にナイとリーナは距離を取るが、二人の傍に存在した岩石を狼男の爪は切り裂く。
「嘘っ!?」
「何て切れ味……まるでミスリル、いやそれ以上だよ!?」
「グゥウウッ……!!」
「ウォオオンッ!!」
岩石を容易く切り裂く狼男の爪の切れ味にナイ達は焦りを抱き、通常種のコボルトや亜種よりも戦闘力が高い。ここまでの強さだとミノタウロスやサイクロプスにも匹敵し、下手をしたらそれ以上の存在かもしれない。
ここでビャクは狼男と向かい合い、互いに狼の魔獣種同士なので敵意を剥き出しにして睨み合う。しかし、ここで満月の光が大きな雲に閉ざされ、狼男に異変が生じる。
「グオオッ……!?」
「えっ……ち、小さくなった?」
「そうか、思い出した!!狼男は満月の光を浴びている間は肉体が強化される!!だけど、光が届かない場所に移動すれば元に戻るんだ!!」
「ウォンッ!!」
満月の光が消えた事で膨れ上がった狼男の肉体は縮まり、爪も牙も元の大きさに戻っていく。その様子を確認してビャクは前脚を繰り出し、狼男を吹き飛ばす。
「ガアアッ!!」
「ギャインッ!?」
「や、やった!!」
「流石はビャクちゃん!!」
「ぷるぷるっ!!」
ビャクの一撃を受けた狼男は派手に吹き飛び、地面に倒れ込む。その様子を見て他の者達は倒したかと思ったが、ビャクの一撃を受けても狼男は胸元の部分に血が滲む程度であり、すぐに起き上がると距離を取る。
「グゥウッ……!!」
「死んでいない!?今の一撃を受けて!?」
「弱っていたとしても仮にも上位種だ!!そう簡単に倒せる敵じゃないよ!!」
「くっ……なら、やっぱり僕達が倒すしかないよ!!」
満月を雲が遮っている内に狼男を倒すしかなく、ナイとリーナは魔剣を構える。この状況下でまともに戦えるのは二人だけかと思われたが、ここでミイナが手斧型の魔斧を取り出す。
「二人とも、援護する!!」
「えっ……うわっ!?」
「わあっ!?」
「ウガァッ……!?」
ミイナはかつて飛行船を襲撃した空賊が所持していた「輪斧」と呼ばれる魔斧を取り出し、それを狼男に向けて投擲する。この輪斧は空中に投げると所有者の意思に従って自由に軌道を変更させる事が出来るため、敵を追跡しながら攻撃する事が出来る。
輪斧はナイとリーナの間を潜り抜け、まっすぐに狼男へと向かう。仮に狼男が逃げようとしても輪斧は軌道を変更させて追撃できるため避ける事は出来ない。
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