第659話 スライムの感知能力
「――はい、プルリンちゃん。あ〜んっ」
「ぷるぷるっ……」
「あれ?嫌がってる……もしかして熱いのは嫌なのかな?」
時刻は夜を迎え、今夜の夕食はモモが担当して暖かいスープを用意する。彼女は宿屋で働いている時は料理を任される事もあるため、料理の腕前は一人前だった。
ちなみに食材に関しては昼間に見かけたボアを使っており、ビャクには大きな骨付き肉も調理している。出来上がったスープにも肉と野菜がたっぷり入っており、皆が美味しく食べる中でプルリンだけはモモが差し出したスープに対して逃げる様にナイの背中に隠れる。
「スライムは熱い物が苦手らしいからね、少し冷ましたら食べるかもしれないよ」
「え〜そうなんだ。あ、じゃあリーナちゃんの武器で冷やせない?」
「えっ!?ぼ、僕の蒼月だとスープを氷漬けにしちゃいそうだし……」
「その時はヒイロの烈火で溶かして貰う事になるのかな」
「私を巻き込まないでください!?」
「ぷるぷるっ」
ナイの後ろに隠れたプルリンは彼の頭の上に移動し、気に入ったのか嬉しそうに顔を弾ませる。女性陣に可愛がられているプルリンだが、一番に懐いているのはナイであり、暇さえあればナイの頭の上に乗ってくる。
「そこが気に入ったの?」
「ぷるぷるっ♪」
「どうやらナイ君に一番心を許しているようだね。どれ、ちょっと触っていいかい?」
「ぷるんっ!!」
「あいてっ」
アルトが触ろうとするとプルリンは頭に生えている角のような触手を動かし、アルトの手を弾く。何故か他の者には懐いているが、アルトだけはプルリンは警戒しており、ナイは慌てて注意した。
「プルリン、駄目だよ叩いたら……」
「ぷるぷるっ……」
「いたたっ……どうやら僕だけ嫌われているらしいね。どうしてだろう?」
「そういえばアルト王子は動物関係には何故か嫌われますね」
「乗馬の練習の時も馬が懐かないで結局は乗り越せないかったから、今でも馬に乗れないぐらい」
「えっ!?そうだったの?」
何故かアルトは動物や魔物から嫌われやすく、理由は不明だが乗馬の際も馬に嫌われて言う事を聞かず、そのせいで彼は馬を乗りこなせないという。
「全く、こんな小さい生き物にも嫌われてしまうのか……今度、動物に好かれる魔道具でも作ってみようかな」
「ぷるぷるっ……ぷるるっ!?」
「ん?どうしたのプルミン?」
ナイの頭の上に乗っていたプルリンは唐突に降りると、全員に何かを知らせるように身体を激しく動かす。その様子を見てナイ達は驚くが、直後に肉に嚙り付いていたビャクも何かに勘付いた様に唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「ビャク?どうしたの?」
「何か感じ取ったのか?」
「でも、僕の気配感知には何も……あっ!?」
「な、何ですかっ!?」
プルリンとビャクの様子が変化した事に気付いたリーナは気配感知の技能を発動させ、この時にナイも彼女と同じように気配感知を発動させた。
最初は気付かなかったが、ほんの僅かだがこちらに近付いてくる気配を感知し、徐々に反応が大きくなっている。すぐにナイは近くの岩の上に乗り込み、観察眼と暗視の技能を発動させ、様子を伺う。
「これは……コボルトだ、しかも亜種だよ」
「亜種!?」
「しっ、声が大きい……姿を隠している。まだ俺達に見つかっていないと思ってるみたいだよ」
「グルルルッ……!!」
暗闇に紛れてコボルトの亜種がナイ達の元に近付いている事が判明し、慌てて全員が警戒態勢へと入る。どうやらビャクが嗅覚で察するよりも早くにプルリンはコボルト亜種の接近に気付いたらしく、彼は怖がるように岩陰に身を隠す。
「ぷるぷるっ……」
「そうか、スライムは感知能力に長けていて敵が近付いてきたら周囲の物に擬態して身を隠すと聞いている……その感知能力でコボルト亜種に気付けたのか」
「え、凄い……僕だって今も気配感知に集中しないと気付けないのに」
「どうする?こっちの様子を伺っているけど……倒す?」
「相手の狙いはきっと僕達の食べ物だろう。試しにビャク君に威嚇しても接近してくるようなら戦うのはどうだい?」
「そうだね、よし!!ビャク!!」
「ウォオオオオンッ!!」
ナイはアルトの提案を受け入れ、ビャクに視線を向けると彼はコボルト亜種に対して咆哮を放つ。大抵の魔物ならば白狼種の咆哮を耳にした瞬間、逃げ出すのだが今回のコボルト亜種は違った。
「ガアアアアッ!!」
「どうやら逃げるつもりはなさそうだ……ヒイロ、ミイナ!!僕の護衛は任せたよ!!」
「仕方ありませんね……」
「後ろに下がってて、モモもプルリンと一緒に隠れてて」
「うん!!おいで、プルリンちゃん!!」
「ぷるぷるっ……」
モモがプルリンを抱えるとアルトの元に移動し、二人の護衛はヒイロとミイナに任せてナイとリーナは武器を構える。コボルト亜種は気付かれていると理解して姿を現す。
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