第651話 アルトと白狼騎士団の同行
「――話は聞かせてもらった!!」
「わあっ!?お、王子様!?どうしてここに!?」
「ど、どうも」
「久しぶり」
ナイの旅にモモの同行が決まり、彼女が喜んでいる所に唐突にアルト達が現れた。王子であるアルトが現れた事にヒナは驚くが、どうやら少し前から盗み聞きされていたらしく、アルトはナイの肩を掴む。
「ナイ君、その旅なんだけど……良かったら僕も同行させてくれないか?」
「えっ!?アルトが!?」
「ちょ、何を言い出すんですか!?」
「また変な事を……」
「いいから、話を最後まで聞いてくれ!!」
アルトの突拍子もない発言にヒイロは慌てふためき、ミイナは呆れた表情を浮かべるが、当のアルトは真面目な表情を浮かべて語り掛ける。
「知っての通り、僕は王子だが王都を離れて旅をした事が何度もある」
「あ、言われてみればアルトと初めて会った時も王都の外だったよね……」
「そうだ、あの時は実験の材料を集めるためにどうしても外に出向かないといけなくね……最近は色々な事があって僕も自分の研究に専念できないんだよ」
王子でありながらアルトは魔道具職人を目指しており、彼は実験に必要な材料を自分自身で調達に向かう事もある。そのため、王都を離れて他の街に赴く事もあり、クーノは彼がよく訪れる街だった。
クーノならばアルトも知り尽くしており、道案内も出来る。また、彼自身も旅に出る事で見識を広げ、旅の道中でナイのために彼の装備の点検ぐらいは出来る事を伝える。
「それに僕が居ればナイ君が身に付けている魔道具の点検や、壊れた時に直す事も出来るよ。この間だって不具合を起こした腕鉄鋼を直してあげただろう?」
「う〜ん、それは助かるけど……」
先日、ナイは湖や深淵の森でフックショットを使用した後、不具合が起きて上手く作動出来ずにアルトに修理してもらった。どうやら湖の中でフックショットを利用した影響らしく、今現在は完璧に直して貰った。
「旅の間のナイ君の装備は僕が責任を以て手入れをするよ。それにうちの二人も一緒だから心強いだろう?」
「え、私達も!?」
「一緒に行くの?」
「当然だろう、君達は僕の王国騎士団だよ」
ヒイロとミイナは自分達も同行する事を強要され、戸惑ってしまう。だが、二人はアルトの専属の騎士団であるため、彼が行くところに同行するのは当然の話でもある。
しかし、ヒナからすればアルト達が同行するとなると折角のモモとナイの仲を縮める計画が台無しになってしまう。だが、相手が王子となると文句も言えず、彼女は困り果てた。
(せ、折角の好機なのに……モモ、あんたからも何か言ってやりなさい)
自分は王子に言い返す勇気はないが、モモに王子が同行する事を拒否する様に促すために視線を向ける。しかし、当のモモ本人はアルト達が同行する事に不満はなかった。
「じゃあ、皆で一緒に行こうよ!!大勢の方がにぎやかだし、面白いと思うよ?」
「そうだろう、モモ君は話が分かるね!!」
「ええっ……良いのかな?」
「良くは無いと思う」
「怒られるのはいつも私達……はあっ」
「モ、モモ〜……」
事態を理解していないのか、皆と行動する方が楽しいと思ったモモはアルト達の同行を拒否しない。そんな彼女にヒナは頭を抑え、これでは自分の計画が台無しだと思い込むが、そんな彼女にアルトは近づいて話しかける。
「ふふふ、大丈夫だよヒナ君」
「え?お、王子様?」
「安心してくれ、君の考えている事はよく分かっている。ナイ君とモモ君の仲を縮めさせようとしているんだね。大丈夫さ、そこは僕達も気を遣うよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、嘘は言わないよ。旅の間は二人が仲良くなれる様に僕も配慮するよ」
「お、王子様……!!」
アルトの言葉にヒナは安心し、彼がそういうのであればヒナとしてもアルト達の旅の参加には文句はない。だが、ここで気になる点があるとすればアルトが旅に出向く事を他の人間が許可するのかが一番の問題だった。
「でも、王子様が旅に出るとなれば他の人たちも黙っていないんじゃ……」
「大丈夫さ、むしろ今の時期なら僕が外に居る方が都合がいいだろう」
「え?」
「いや、何でもないさ……」
ヒナはアルトの口ぶりに違和感を覚えたが、その後にアルトは王城へと戻り、ナイと共に旅に出る事を伝えに向かう――
――結果から言えばアルトの同行は意外なほどにあっさりと許可が下りた。アルトは国王に相談した所、最初は彼も反対しようとしたが、今の状況だと王都内でも安全かどうかは言い切れず、もしかしたら王都の外に出向いていた方が危険は少ないかもしれない。
今の所は前回の白面の襲撃から特に大きな事件は起きていない。しかし、だからといって油断は出来ず、常に王都は警戒態勢を敷かねばならない。常に警戒態勢の王都よりも外の方がまだ安全かもしれず、国王はある条件を付けくわえた上でアルトがナイと同行して旅に出る事を許可した。
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