第652話 アルトの苦悩、ナイとモモとリーナの関係性

「――もう、遅いよ二人とも!!皆待ってるよ〜!!」

「ご、ごめ〜んっ!!」

「ビャクがご飯を食べ終えるのに時間が掛かって……」

「ウォンッ!!」



ナイがクーノへ向けて出発する日を迎え、まだ夜明けを迎えたばかりの時間帯に王都の城門には既にアルト達と黄金冒険者であるリーナが待ち構えていた。


国王がアルトを王都の外に出す条件として腕利きの護衛を同行させる事を提案し、その結果として黄金冒険者であるリーナが選ばれた。リーナは昔からアルトとも知り合いであり、アッシュ公爵の娘でもあるので信頼における人物だった。そのため、今回の旅の同行に選ばれたのは必然でもある。


ちなみにヒナがリーナを同行する事を知っていれば彼女は止めたかもしれないが、生憎とリーナが同行する事を知っていたのはナイ達だけである。リーナがモモと同様にナイの事を意識しているのにヒナは気づいているため、今回の旅に参加させるとなると彼女の計画が台無しになってしまう。



「リーナちゃんも一緒に来てくれて嬉しいよ〜これからよろしくね〜」

「うん、任せて!!何があっても僕が守るからね!!」

「はっはっはっ……君達は仲が良いね」

「小さい頃からの付き合いだもん、当たり前だよ〜」



アルトは仲睦まじそうに接するリーナとモモを見て朗らかな笑みを浮かべるが、内心はヒナに対して謝罪する。まさか護衛役として彼女が選ばれるとは思わず、アルトはヒナとの約束を守れるかどうか不安を抱く。



(困ったな、ヒナ君にはナイ君とモモ君の仲を縮める様に言われたが、リーナ君も確かナイ君の事を気にしているという話だし……僕はどうすればいいんだ)



実はリーナがナイの事を男性として意識しているかもしれないという話はアルトも聞かされており、その話をした相手がリーナの父親のアッシュ公爵だった。アッシュは先日にナイにメダルを渡しているため、実質的にアッシュはナイとリーナが関係を持つ事を認めている事に等しい。



『アルト王子……娘が最近、ナイ君の事ばかり話してきましてな。私は父親としてどうしたらいいと思いますか?』

『う〜ん……まず、相談する相手を僕なんかでいいと思うんだが』

『しかし、アルト王子もリーナとは小さい頃からの付き合いだし、ナイ君とは親しい間柄と聞いていたので……具体的に二人の仲はどんな感じなのか教えていただきたい』



アルトはアッシュに相談され、正直に言えばナイとリーナの関係性は彼も良く知らない。しかし、リーナの贈り物をナイは身に付けている事からも二人とも友達のような関係なのは違いないが、当のナイはリーナにどのような感情を抱いているのかはアルトにも分からない。


リーナがナイを意識しているのは間違いなく、実際にアルトの目から見てもナイと話す時のリーナは昔からの付き合いであるアルトと話すよりも嬉しそうに見える。別に彼女に恋愛感情などは抱いていないアルトだが、自分と接する時よりナイと接する時の方が生き生きとする姿を見て少し複雑に思う。



(幼馴染としてはリーナの恋路も応援してやりたいが、ヒナ君と約束してしまったしな……どうすればいいのやら)



ヒナとの約束の手前、モモとナイの仲を深める事に協力しなければならない。しかし、心情的にはリーナの恋路を邪魔したくはない気持ちもある。アルトはどうすればいいのかと困っていると、ナイが声を掛ける。



「アルト、どうしたの?皆、もう乗ったよ」

「ウォンッ!!」

「あ、ああ……すまないね」



事前に城門にはビャク専用の特別な馬車が用意されており、今回の旅の時はビャクが車を引いて旅をする事が決まっていた。馬が引く車が「馬車」ならば狼が引く車は「狼車」と呼ぶべきか、ともかく既にアルト以外の全員が狼車に乗り込んでいた。


考えるのは後回しにしてアルトは狼車に乗り込むと、改めてナイ達は王都を出てクーノの街へ向けて出発する。今回の目的はクーノの街に住んでいるはずの元情報屋を見つけ出し、20年前に存在した白面の組織の情報を掴む事だった。



「よし、皆行くよ!!」

『出発!!』



ナイが声を掛けると全員が掛け声を合わせ、遂に王都を出立してクーノへと向かう。飛行船でイチノで向かった事はあるが、それ以外で王都を発つのはナイにとっては初めてだった。


しかし、狼車がクーノへ向けて出発する光景を城壁から見下ろす人物が居た事にナイ達は気づく事は出来なかった。その人物は白面で顔面を隠し、去っていく狼車を見送った後、姿を消した――

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