第650話 旅立つ前に

「手っ取り早く、あたしが言って話を聞いた方が良いと思うんだけどね。騎士団長のあたしが勝手に王都の外に出向く事はやっぱり問題があってね……それであんたに代わりに人探しをしてほしいわけさ」

「なるほど、そういう事ならいいですよ」

「助かるよ……まあ、あんたは旅に慣れてるだろうし、実力も確かだからね。他に頼める人間が居ないというのもあるけど……」



クーノに暮らすと思われる情報屋の老人の元にナイはテンの代わりに尋ね、もしも彼が生きていれば20年前に存在した白面の情報を聞き出し、王都へと帰還する。クーノはナイも訪れた事がある場所のため、テンも彼にならば任せられると判断した。



「旅費に関しては悪いけど立て替えてくれるかい?戻って来た時に騎士団の予算から支払うよ」

「え、いいんですか?」

「こっちが頼みごとをしている立場だからね、むしろ謝礼金も支払わないといけないよ。それと、念のために言っておくけど旅に出るときは気を付けるんだよ」

「はい、分かりました」

「なら、早速出悪いんだけど準備が出来次第にすぐに向かってくれるかい?一応、他の連中にも街を離れる事は伝えておいた方がいいからね……特にモモの奴には」

「え?あ、はい……分かりました」



テンはモモがナイに惚れている事は知っており、もしもナイが何も言わずに旅に出ると知ったら彼女が卒倒してしまうのではないかと思い、念のために注意しておく。ナイはテンの言葉に不思議に思いながらも、旅に出る準備と出発前に親しい人たちに旅に出る事を伝えに向かう――






――旅立ちの準備の際、ナイは白猫亭で暮らすモモ達に旅に出る事を伝えると、テンの予想通りにナイが王都を離れると知ってモモは衝撃を受けた。



「ええっ!?ナイ君、王都から出ていくの!?そんなのやだようっ!!」

「いや、少しの間だけ離れるだけだから……」

「あ、そうなんだ……良かった〜」

「でも、少しと言ってもクーノからここまで距離があるわよね。具体的にはどれくらいかかるの?」

「ビャクに乗ればそんなに時間は掛からないと思うけど……まあ、人探しも兼ねたら一週間ぐらいかな?」

「一週間か……」



モモはナイが旅に出ると聞いて必死に引き留めようとするが、すぐに彼が戻ってくる事を伝えると安心する。その一方でヒナはナイが一週間で戻ってくるという話を聞き、これは好機ではないのかと考える。



「ねえ、ナイ君……良かったらモモも一緒に連れて行ってくれない?」

「えっ!?」

「ヒナちゃん!?急にどうしたの!?」

「いや、その……ほら、白面のせいで街の人たちもあまり外に出歩かなくなったでしょ?それが原因でうちの店も客足が減って少し暇になったから、モモ一人がいなくても別に大丈夫だと思うし……それにこの子も前から旅に出る事に興味があったのよ」

「え、そうなの!?」

「あれ、本人が一番驚いているけど……」



ヒナの言葉にモモは戸惑うが、そんな彼女の身体を抱き寄せてヒナはナイに聞かれない様に小声で話しかける。



「ちょっと、モモ……いいから話を合わせない、これは好機よ」

「こ、好機?」

「いい?旅に出るという事はずっとナイ君と一緒に居られるのよ。それはつまり、ナイ君と距離を縮める絶好の機会よ」

「仲を縮める……で、でも私は旅に出た事なんてないよ?」

「大丈夫、あんたは料理も上手くなったし、旅の途中でナイ君の胃袋を掴むのよ。とにかく、ナイ君の役に立てば今以上に仲良くなれるわ」

「仲良くなる……う、うん!!頑張るよ!!」

「あの、どうしたの二人とも?」



こそこそと話し合う二人にナイは疑問を抱くと、ここでヒナはモモを彼に同行させるため、それらしい理由を考えてナイを説得した。



「ほ、ほら!!旅に出る事になるとしたら魔物と遭遇するかもしれないでしょ?その時にナイ君やビャクちゃんが怪我をした時、モモが側に居れば怪我を治してあげられるじゃない?それにナイ君の煌魔石だってモモが居れば魔力を回復できるでしょう」

「あ、なるほど……それは確かに助かるかもしれない」

「でしょ!?ねえ、モモもナイ君が心配だから一緒に付いて行きたいでしょう!?」

「う、うん!!そうだね、ナイ君一人だとまた無茶をするかもしれないし……一緒に行こうよ!!」

「うわっ!?」



モモはナイの右腕に抱きつき、この時に彼女は無意識に自分の最大の武器である大きな乳房を押し付ける。無意識に身体を密着させ、ナイにモモは必死に頼み込む。



「ねえ、いいでしょ?私、ナイ君のためなら何でもするから!!」

「な、何でもって……」

「料理でも肩もみでも膝枕でも何でもするから!!」

「……わ、分かったよ。でも、別にそこまで気負わなくてもいいよ?」

「やった!!」

「モモ……恐ろしい子ね」



本人は特に意識しているわけではないだろうが、彼女は強引に押し切って旅の同行を許可してもらう――

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