第649話 訓練の中止

――白面なる存在が現れた後、王都に滞在する騎士団と兵士は今まで以上に王都の警備を強化させ、各騎士団が担当を任されている地域の見回りを強化したり、冒険者ギルドにも協力を仰ぐ。


富豪区は黒狼騎士団、工場区は銀狼騎士団、一般区は白狼騎士団と聖女騎士団、商業区に関しては冒険者ギルドの冒険者達が定期的に巡回し、警戒態勢を取る。


結果から言えば前回に騎士団に襲撃を仕掛けた白面の暗殺者全員が死亡し、誰一人として生き残る事は出来なかった。全員が事前に毒を飲んでいたらしく、治療も間に合わずに死んでしまう。


テン達はかつて聖女騎士団が排除した白面を被った組織と今回の白面の暗殺者集団が関与していると睨んでいるが、今の所は繋がりはあるとすれば白い仮面を被っているという点だけであり、そもそも前に活動している白面の組織は既に壊滅している。


現状では20年近く前に壊滅した白面の組織と、今回の白面の暗殺者集団の共通点は似たような仮面を身に付けているという点しかない。しかも調べようにも20年近くも前に壊滅した組織の情報など簡単に手に入るはずがない。




――情報屋のネズミならば何らかの白面に関する情報を知っていたかもしれないが、テンによれば彼女はもうこの王都を去ったはずであり、今から探し出すのは難しい。本人も命を狙われている立場のため、身を隠しているだろう。




白面の秘密を知るためには20年近く前に組織と関りがあった人物を見つけ出すか、あるいは現在の白面の暗殺者を捕まえて情報を吐かせるしかない。しかし、後者の場合は最初の襲撃から数日も経過したのに未だに手がかり一つ掴めず、残された手段は前者だけであった。



「人探し、ですか?」

「ああ、これはあんたにしか頼めないんだよ」



ある時にナイは白猫亭にてテンに呼び出され、彼女から人探しを頼まれた。ナイは銀狼騎士団に仮入団して活動していたが、白面の襲撃があってからは訓練は中断し、現在は何処にも所属していない。


当初の予定では銀狼騎士団の訓練を終えた後は聖女騎士団の元で訓練を受ける予定だったのだが、現在は訓練を中断して自由に行動する事が出来た。そんな彼だからこそ、テンは頼みごとを行う。



「あんたにはこれから白面の事を調べてほしいんだよ。あたし達は騎士団の仕事があるから表立っては動く事は出来ない。けど、あんたは違うからね」

「はあっ……でも、調べるといってもどうやって?」

「白面は20年以上も前から存在した闇ギルドだ。あいつらは当時は王都の闇ギルドの中でも最強の暗殺者集団と恐れられていた。時には王都以外の街でも騒ぎを起こしていたらしいからね……仮に残党が生き残っているとしたら、王都を離れて暮らしているはずだよ」

「そうなんですか……え、まさかその残党を探すんですか!?」



テンの言葉にナイは驚き、何の手掛かりもないのに20年近く前に壊滅した組織の残党を探せなど無茶苦茶過ぎる。しかし、その辺はテンもしっかりと考えているらしく、彼女は唯一の手掛かりを持つ人物の事を話す。



「いや、あんたにしてほしい事は20年前に情報屋として働いていた爺さんを探し出してほしいのさ。確か、あの爺さんは大分前に引退して今は王都を離れて別の街で暮らしているらしいからね。あんたにはその爺さんを探してほしい」

「爺さん?」

「名前はゴエモン、若い頃はかなりに名の知れた泥棒らしいけど、あたしが出会った時はよぼよぼの爺さんだったね。今も生きているのかは知らないけど、爺さんなら白面の事も何か知っているかもしれない。ほら、これが爺さんから送られてきた手紙だよ」

「うわっ……随分と汚れてますね」

「王妃様が死んだとき、送られてきた手紙だからね……あの爺さんも王妃様とは縁があったんだろうね」



20年前に王都で情報屋を務めていたという老人から送られた手紙にはジャンヌの死を嘆き悲しむ文章が記されており、手紙には彼が暮らしている街に関しても記されていた。



「クーノの街?」

「その手紙を送り出した時点では爺さんはその街に居たはずだよ。あんたも王都へ辿り着くまでに寄ったんじゃないのかい?」



クーノの街とは王都から最も近い場所に存在する街であり、テンの言う通りに王都へ向かう道中でナイはクーノにも立ち寄っている。クーノは王都ほどではないが、イチノよりも発展した街であり、ナイの記憶にも根強く残っている。


仮にテンの語る情報屋の老人が生きているのならばこの街にまだ暮らしている可能性があるため、彼女は自分の代わりにナイにクーノへ向かい、情報屋から話を聞くように頼む。テンによれば彼ならば白面に関する情報を持っている可能性が高いらしく、この役目はナイにしか任せられないという。

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