第646話 白面
――同時刻、別の地区でも謎の仮面を身に付けた集団が見回り中の王国騎士団に襲い掛かっていた。富豪区ではドリスが率いる黒狼騎士団、そして一般区では白狼騎士団と聖女騎士団が同時に襲撃を受ける。
幸いにも各騎士団は突如として現れた白面の集団を撃退に成功し、敵を捕まえる事は成功した。しかし、被害は決して小さくはなく、襲撃者が仕掛けた毒や武器によって何名かの騎士が意識不明の重体へと陥った。
「あんたら、いったい何者だい!?何処でその仮面を見つけた!!」
「ぐふっ……!?」
「テンさん!?駄目ですよ、死んでしまいます!!」
「殺す気か!?」
一般区に現れた白面の襲撃者に対してテンは頭から血を流しながらも力ずく暗殺者の首根っこを掴み、持ち上げる。その様子を見てヒイロとルナが慌てて止めようとするが、テンは構わずに白面の暗殺者の首元を締め付ける。
「忌々しい物を見せつけやがって……吐け!!あんたらの正体を!!」
「テンさん!?何か知っているんですか?」
「こいつら、見た事があるのか?」
「見た事もあるも何も……こいつらは私達がかつて壊滅させた闇ギルドの暗殺者集団だよ」
テンの他に聖女騎士団の中には白面を身に付けた者達に心当たりがあるらしく、その殆どが昔から聖女騎士団に所属していた者達だった。一番後に聖女騎士団に加入したルナは知らないが、この「白面」を身に付けた暗殺者集団の事はテン達も忘れもしなかった。
「こいつらはまだテンが加入したばかりの頃、王都で最も恐れられた闇ギルドに所属する最強の暗殺者集団だった。ある時、ジャンヌの王妃の命を狙って奴等は襲ってきた」
「あの時は本当に酷い戦いだった……仲間もかなりやられたね。こいつらは必ず仕事の時は白い仮面を身に付ける事から白面と呼ばれていた」
「白面は只の暗殺者ではない、目的のためならば自分達が犠牲になる事も構わずに襲ってくる。以前に死にかけた白面の暗殺者が身体中に火属性の魔石を身に付け、それを爆破させたときは大変な事態に陥った」
「えっ!?」
かつて聖女騎士団は白面と呼ばれる暗殺者集団と対峙した時、当時の騎士団の3割近くの団員が白面との戦闘で失ってしまう。そのため、テンは白面に対して強い憎しみを抱いていた。
テン以外の者達も白面を知る者達は彼等に恨みを抱き、そしてかつて壊滅させたはずの白面を身に付けた集団が現れた事に彼女達は冷静でいられず、何としても情報を吐かせるために捕まえる。
「さあ、とっととその汚い面を見せな!!」
「があっ……!?」
「えっ!?こ、この顔は……」
「……酷い」
捕まえた白面の暗殺者の仮面をテンが奪い取ると、その下に現れたのは顔に入れ墨が彫られた男の顔であり、額、頬、顎、それぞれが顔の何処かに必ず入れ墨を刻まれていた。
暗殺者は全員が獣人族である事が判明し、仮面を外した途端に彼等は苦し気な表情を浮かべ、必死に仮面を奪い取ろうとしてきた。そんな様子を見てテンは怒鳴りつける。
「こいつを返してほしいのかい?なら、あんたらの正体を話して貰うよ!!」
「あ、あががっ……!!」
「訳が分からない事を言ってんじゃないよ!!しっかりと喋りなっ!!」
「…………」
テンの言葉に捕まった男は歯を食いしばり、やがて舌を出す。最初は自分を馬鹿にしていると思ったテンだが、男は直後に白目を剥いて泡を吹く。
「ぐふぅっ……!!」
「なっ!?お、おい!!」
「テン、他の奴等も!!」
「何だって!?」
急に泡を吹いて白目を剥いた男を見てテンは戸惑うが、他の者達も一斉に泡を噴き出し、やがて動かなくなった。その様子を見て全員が死んだ事を悟り、ミイナが信じられない表情を浮かべて倒れている暗殺者を見下ろす。
「……事前に毒を飲み込んでいた?もしも戻れなかった場合、毒で死ぬつもりだった?」
「そんな馬鹿なっ……」
「何てことを……」
目的のために手段は選ばず、白面の暗殺者は仕掛ける前に事前に毒を飲み込み、仮に目的が失敗して捕まった場合は情報を吐かない様に毒で死ぬように仕向けられていたのだ。
結局は他の場所で捕まった白面の暗殺者も同様に毒を服用していたらしく、もしも目的を達成していた場合は引き返して解毒薬を飲むつもりだったのだろう。任務に失敗した者は死を与えるやり方にテンは吐き気を催す。
「いったい何なんだい、こいつらは……!!」
「テン……」
テンの虚しい叫びが街中に響き渡り、結局は本日王国騎士団に襲撃した白面の暗殺者集団の正体を掴む事は出来ぬまま、騎士達は王城に引き返すしかなかった――
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