第647話 闇ギルドの長の恐怖

――白面が引き起こした事件の夜、闇ギルドの長達が集まり、すぐに会議が開かれた。しかし、会議に参加した人間は2人しかおらず、前回の会議に参加した人間の殆どが消えていた。


会議に参加する人間の中で最も古株である老人は身体を震わせ、シャドウの到着を持つ。もう一人の人物は全身をフードで覆い隠し、姿を見せない。最も会議中に姿を消す人間は珍しくはないが、妙な雰囲気を纏っていた。



『……待たせたな』

「お、遅いぞ!!何をしていた!?」

「…………」



円卓にシャドウが現れると早々に老人は怒鳴り散らす。普段の彼ならばシャドウが現れると怯えるのだが、今回ばかりは彼に問い質さなければならず、興奮した様子で怒鳴りつける。



『まあ、落ち着け……例の白面の奴等だな?』

「その通りだ!!奴等は何者だ!?お前なら知っているのか!!」



昼間に騒動を引き起こした白面に関しては闇ギルドの長は一切関知しておらず、彼等の正体を知っている人間といえばシャドウぐらいしか心当たりがない。だからこそ急遽会議を開いたのだが、何故か他の闇ギルドの代表は来ない事にも疑問を抱く。



「それに他の奴等はいったいどうした!?どうして儂等しかおらんのだ!?」

『さあな……あんまりにも当てにならなくて排除されたんじゃないか』

「は、排除だと!?馬鹿な、誰にやられた!?まさか、お前が……」

『おいおい、こっちは相棒を失ったばかりだぜ?』



イゾウが死んだ事は既に闇ギルドの長も把握しており、結果から言えばテンの暗殺は失敗に終わった。その事に関してはシャドウは謝罪も行わず、自分の前に堂々と姿を現した彼に内心では怒りを抱く。


しかし、得体の知れない「白面」なる存在が現れた事で状況は一変し、王都の闇ギルドの長として彼等の正体を見極めなければならない。本来ならばネズミがいれば彼女から情報を探らせるのが一番なのだが、そのネズミはもういない。



「シャドウ、答えろ!!奴等の正体をお前は知っているのか!?」

『知っていると言えば……まあ、知っているな。但し、俺も今日ばかりだ』

「聞かされた、だと!?それはどういう意味だ?」

『本人に聞いてみたらどうだ?』



シャドウはこの場に存在する人物の中で一言も喋らずに座っている人物に視線を向け、どういう意味なのかと長は視線を向ける。だが、ここで彼は違和感を抱く。



(待て、どうして儂はこいつの事を……!?)



この瞬間に長は違和感を抱き、彼は姿を隠して会議に参加する人物に疑問を抱く。別に会議中に姿を隠して参加する事自体はよくある話だ。しかし、王都の闇ギルドの代表と言っても過言ではない自分に対して正体も明かさずに黙ったまま座っている人物の態度に普段の長ならば問い質してもおかしくはない。


しかし、最初にこの人物を前にしても長は特に何の疑念も抱かず、シャドウが訪れるまで待ち続けた。その時間はどれだけの長さだったのかは知らないが、長は何度でも待ち構える人物の正体を確かめる事は出来た。それなのに長は確認しなかったという事に彼は自分自身に違和感を抱く。



(何だ、この男は……目の前に居るのにまるで存在感を感じさせない。まさか、隠密の技能か!?)



会議に唯一に参加している人物は隠密の技能で限りなく存在感を消し去り、その影響で長も彼の存在を認識できずにいた。シャドウの指摘がなければきっと長は彼の事を気にも留めなかっただろう。



『大将、そろそろ姿を見せたらどうだ?』

「……頃合いか」

「た、大将……だと!?どういう事だ!?」



シャドウの言葉を聞いてフードで全身を覆い隠していた人物は顔を露にする。それを見た瞬間、長は腰が抜けそうになった。



「き、貴様は……その仮面はまさか!?」

「こうして顔を合わせるのは……初めてか?」



その人物は顔面を白色の仮面で隠しており、それでも皺だらけの腕や白髪頭である事、何よりも声が老人である事を知らせる。恐らくは長とそれほど変わらない年齢だと思われ、昼間に騒動を起こした白面の暗殺者と同じ仮面を身に付けていた。


状況的に考えて長の前に現れたのは白面の暗殺者の関係者、下手をしたら統率する立場の人間だと分かり、慌てて長は距離を取る。しかし、そんな長に対してシャドウは円卓に腰かけ、語り掛ける。



『改めて紹介しよう……この人がお前達が白面と呼ぶ暗殺者の上司、というよりも統括者だな』

「と、統括!?では、お前が白面の組織の主か!?」

「奴等は儂の手足にしか過ぎん。配下ではなく、ただの手駒だ」



長は仮面を被った老人の言葉を聞いて冷や汗を流し、この人物とシャドウがどのような関係なのか気になった。シャドウは冗談でも他の人間を敬うような態度は取らないが、この人物に対してはわざとらしくありながらも自分よりも上の立場の人間であるかのように語り掛ける。



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