第645話 白煙の暗殺者
「おのれ……こんな事で私を嵌めたつもりか!!」
「シャアッ!!」
「ちぃっ!!」
暴風を発動させて白煙を振り払おうとした瞬間、煙の中から先ほどの仮面を身に付けた小男が襲い掛かり、それに対してリンは刀を抜いて鉤爪を弾き返す。
魔法剣を発動させるには集中力が必要であり、敵は煙の中でもリンの正確な位置を見分ける事が出来るのか煙に紛れながらも彼女の急所を狙って攻撃を仕掛けてくる。そのため、リンは魔法剣を発動させる暇がない。
(忌々しい、魔法剣を使う隙も与えないつもりか……くそっ!!)
苛立ちを抑えきれずにリンは刀を握りしめ、次に敵が仕掛けて来た時は確実に仕留め、その後に魔法剣を発動させて白煙を振り払うつもりだった。だが、ここでリンは妙な倦怠感に襲われ、膝を崩す。
「ぐふっ……げほっ!!げほっ!!」
リンは口元を抑えるが、激しく咳き込む。煙を吸ってむせたにしては倦怠感まで引き起こすのはおかしく、ここで彼女は周囲を取り囲む白煙がただの煙ではない事に気付き、周囲に聞き耳を立てる。
「はあっ、はあっ……」
「な、何だ!?身体が……」
「げほっ、げほっ!!」
どうやら彼女以外の者達も白煙の影響を受けて咳き込んでおり、リンは確信を抱く。この白煙はただの目くらましの効果だけではなく、毒も混じっているのだ。
(馬鹿な、奴等は何故平気なんだ……まさか、あの仮面か!?)
襲撃者は全員が顔面を覆い込む仮面を身に付けており、あの仮面が白煙の毒を防ぐ効果があるのか、リンたちと違って毒の影響を受けている様子はない。
倦怠感は徐々に強くなり、これ以上に煙を吸うのはまずいと判断したリンは一刻も早く煙を吹き飛ばす必要があった。このまま煙を放置すれば被害は騎士団だけではなく、街の住民にも及ぶ。
(くっ……駄目だ、魔力が上手く練れない……)
毒の影響のせいかリンは暴風に魔力を込める事が出来ず、それどころか立っている事も出来ずに膝を着く。この状態で暗殺者に襲われた為す術がなく、やがて煙の中から仮面を纏った暗殺者が飛び掛かってきた。
「シャアアッ!!」
「くぅっ!?」
リンに向けて白いお面を被った暗殺者が飛び掛かり、彼女は咄嗟に暴風を構えようとしたが、飛び掛かってきた暗殺者の左側から何者かが拳を突き出す。
「おらぁっ!!」
「ブフゥッ!?」
「何っ……!?」
暗殺者の顔面を殴りつけたのはナイであり、彼は口元にハンカチを撒いた状態で暗殺者を容赦なく殴り飛ばす。暗殺者が身に付けていた仮面が砕け散り、地面に散らばる。
殴りつけられた暗殺者は巨人族に吹き飛ばされた様に派手に地面に転がり込み、その間にナイはリンの元へ駆けつけ、彼女の安否を確認した。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああっ……お前は無事だったか」
「はい、どうにか……今から煙を吹き飛ばしますね!!」
「何っ……!?」
ナイは旋斧を構えると、刀身に風属性の魔力を流し込み、更に剛力を発動して腕力を強化した状態で身体を回転させる。この技を使うのは久しぶりであり、約1年ぶりにナイは自分が編み出した唯一の剣技を放つ。
(円斧!!)
身体を一回転させるようにナイは旋斧を振り払った瞬間、刀身に纏っていた風属性の魔力が拡散し、先日の鋼の剣聖であるゴウカが「炎輪」を生み出した時のように周囲に風属性の魔力が拡散した。
旋斧から放たれた風属性の魔力によって白煙は吹き飛び、広場から煙が消え去る。暗殺者達が落とした筒はどうやら既に煙が切れていたらしく、そこには膝を着いた女騎士達と、倒れている暗殺者の姿があった。
「げほっ、げほっ!!」
「はあっ……し、死ぬかと思った」
「あ、がぁっ……」
「うぎぃっ……!?」
膝を着いている女騎士達は怪我を負った人間はいるが、倒れている人間はいなかった。その一方で広場に倒れた数名の暗殺者を確認し、リンはナイが一人で彼等を倒したのかと驚く。
「まさか、一人でこれだけの数の敵を……!?」
「え?いや、倒したのは3人ぐらいだけですけど……」
「残りの者達は拙者達が倒したでござる」
「遅れてすまない」
リンの言葉にナイは不思議そうに倒れている暗殺者に視線を向けると、この時にシノビとクノが現れ、どうやら二人とも遅れてだが駆けつけてきたらしく、二人の手には拘束した暗殺者の姿があった。
どちらも仮面を身に付けた状態で気絶しているらしく、地面に降ろしても意識は戻らない。自分と比べてナイ達が平気そうな表情をしている事に気付き、リンは苦笑いを浮かべる。
「そうか、お前達は毒耐性の技能を持っているんだな」
「その通りでござる」
「忍者であれば必須の技能だ」
「えっと……忍者じゃないけど、便利そうなので覚えました」
白煙の中でナイ達だけが平気だったのは3人とも毒耐性の技能のお陰であり、3人とも最悪の事態は免れた。そして改めて襲撃を仕掛けてきた暗殺者達を拘束し、毒に侵された者を集める――
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