第643話 瞬動術
「スンスンッ……ウォンッ!!」
「見つけた!!付いてきてください!!」
「よし、急げっ!!」
ビャクは街中でコボルトの臭いをかぎ取ると、移動を開始する。リンが乗りこなす白馬は中々足が速く、ビャクの移動速度にも付いて来た。
街中を移動中、遂にナイ達は屋台を襲うコボルトの姿を確認した。どうやら屋台で焼いていたボアの肉の匂いを嗅ぎつけたらしく、コボルトは無我夢中に屋台の肉を貪り喰らう。
「ガアアッ……!!」
「ひいいっ!?だ、誰か助けてくれ!!」
「な、何で魔物がこんな場所に……」
「兵士は何をしてるんだ!!」
コボルトは屋台で焼いている肉に嚙り付いていると、その光景を見た人々は悲鳴を上げて逃げ惑い、そのせいでナイ達は押し寄せる人々のせいで上手く近づけない。リンは魔剣「暴風」に手を伸ばすが、彼女はコボルトとの距離を把握してこの位置からでは攻撃できないと判断した。
「くっ、ここからではまだ遠いか……」
暴風を使用すればリンは風邪の斬撃を飛ばして遠方に存在する魔物であろうと切り裂く事は出来るのだが、進行方向に他の人間が居る場合は攻撃を巻き込んでしまう可能性もある。
ナイも刺剣を放ってコボルトに攻撃を仕掛けようかと思ったが、押し寄せる人々のせいで上手く狙いが定まらず、やがてコボルトは屋台の肉を喰いつくすと駆け出す。
「ガアアッ!!」
「ぎゃああっ!?」
「こ、こっちに来たぞぉっ!!」
「いかん!!」
コボルトの次の狙いは通行人に定め、逃げ惑う人々の中でも肥え太った男性に向けて駆け出し、牙を剥き出しにして飛び込む。それを見たリンは何とか止めようとしたが、ここでナイはビャクの背中から飛び降りると、押し寄せる人々を跳び越えてコボルトの元へ向かう。
「うおおっ!!」
「なっ!?」
「ウォンッ!?」
クノとの戦闘でも利用した剛力と俊足と跳躍の3つの技能を組み合わせた移動法を利用し、ナイは通常の「跳躍」の技能を発動した時よりも遥かに高く浮き上がり、上空からコボルトに目掛けて刺剣を振りかざす。
彼女との試合ではナイは加速に重点を置いて発動したが、今回は跳躍力に重点を置いて発動させる。その結果、通常の跳躍よりも遥かに高く跳ぶ事に成功し、コボルトに目掛けて刺剣を放つ。
「くたばれっ!!」
「アガァッ!?」
「うひぃっ!?」
通行人が襲われる前にナイはコボルトの頭部を貫き、無事に倒す事に成功した。その様子を見てリンは驚愕し、一方でナイの方は安堵するが、ここで自分が思っていた以上に高く跳んでいた事に気付く。
「うわぁっ!?」
「危ない!!」
「ウォンッ!!」
落下するナイを見て慌ててリンとビャクは駆け出そうとしたが、咄嗟にナイは左腕のフックショットを思い出し、咄嗟に近くの建物に向けて放つ。フックショットは建物の屋根へと突き刺さり、そのままナイはどうにか地面へと着地する。
「はあっ……あ、危なかった」
「……全く、こっちが冷や冷やしたぞ」
「ウォンッ……」
無事に地面に着地したナイを見てリンとビャクは安堵すると、すぐに合流を果たす。ナイは建物に突き刺さったフックショットを剛力を発動させて力ずくで刃を引き抜き、回収を行う。
改めてナイは自分の刺剣でコボルトを無事に倒せた事を確認し、安心するのと同時に新しく生み出した移動法も思いのほかに役立つ事を実感した。この移動法はナイは「瞬動術」と名付け、これで実戦でも役立つ事は確定した。
(うん、いい感じだ。悪くない……でも、まだ反動が強いな)
先ほど瞬動術を発動した際にナイは足を痛めてしまい、今の状態では連続して発動する事は出来ない。下手に多用すればナイの両脚の負担が重なり、壊れてしまう危険性もある。
それでも瞬動術を慣れるまで使いこなせるようになれば、今後はビャクに頼らずとも普通に駆け抜けるより早い移動手段を身に付けられるかもしれない。しかし、今の時点では無理は出来ず、ビャクに乗り込む。
「じゃあ、捜索を再開しましょうか」
「ああ、但し今度は何かを行う時は報告してくれ。もう今の様に勝手に動くのは無しだぞ」
「あ、はい。すいません……」
リンの言葉にナイは頷き、街に逃げ出した魔物の捜索を再開する――
――その後、街に逃げ出した4体のコボルトは無事に銀狼騎士団の手によって全て始末され、残されたのはコボルトの亜種が1体だけだった。コボルトの亜種は建物の屋根の上を駆け巡り、銀狼騎士団の追跡を撒いていたが、遂に地上へ降りると噴水がある広場にて追い込まれる。
「追い詰めたぞ!!」
「絶対に逃がすな!!」
「囲め、もう好きにさせないぞ!!」
「グルルルッ……!!」
周囲を女騎士達に取り囲まれたコボルト亜種は唸り声をあげ、遅れて到着したリンとナイはコボルト亜種が女騎士達に武器を突きつけられる寸前だった。
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