第642話 緊急任務
「クノまで倒したか……面白い、なら次の対戦相手は……」
「俺の出番か」
「うわっ!?」
何時の間にかシノビが姿を現し、彼は妖刀「風魔」を腰に差した状態で現れる。シノビは試合場に登ると、ナイと向き合う。その様子を見て他の団員は緊張感を抱き、ナイの方もシノビを前にして冷や汗を流す。
シノビとは共に戦った事はあるが、対戦した事は一度もない。しかし、実力は妹であるクノを上回るはずであり、ナイは木剣を握りしめるとシノビは首を振る。
「武器を変えろ、そんな玩具では相手にもならないだろう」
「えっ……」
「なるほど、本気で戦いたいという事か……いいだろう、誰かナイの武器を持ってきてやれ」
「は、はい!!」
リンの言葉に慌てて団員達がナイの旋斧と岩砕剣を数人がかりで運び込み、試合場に立つナイの元へ送り届ける。ナイは木剣を手放し、渡された旋斧と岩砕剣を両手で受け取ると、シノビと向かい合う。
シノビはいつもの短刀ではなく、今回は風魔だけを扱うつもりなのか短刀は身に付けていない。ナイは風魔を扱うイゾウとの戦闘を思い出し、あの妖刀の恐ろしさはよく知っている。
「手加減は抜きだ、全力で行くぞ」
「……はいっ!!」
「よし、準備はいいな?では……始めっ!!」
ナイは両手の大剣を構え、シノビが風魔を抜こうとした瞬間、ここで訓練場に兵士が駆けつけてきた。その兵士は酷く慌てた様子であり、リンの名前を叫ぶ。
「リン副団長!!こちらにおりますか!?」
「……何だ、こんな時に。訓練中だぞ?」
折角のナイとシノビの試合を見れると思っただけにリンは駆けつけてきた兵士に対して不満そうな表情を浮かべ、試合場に立っていた二人も動きを止めた。全員が何事かと兵士に顔を向けると、彼は慌てた様子で告げる。
「き、緊急任務です!!銀狼騎士団の管理する工場区にて闘技場に移送中の魔物が脱走したそうです!!」
「何だと!?」
「工場区では現在、非常警戒態勢が敷かれております!!すぐに銀狼騎士団を出動させ、魔物の退治を……!!」
「……仕方ない、訓練はここまでだ!!これより、工場区に向かうぞ!!」
兵士の言葉を聞いてリンは表情を一変させ、他の団員も即座に行動に移る。ナイも慌てて他の者に続き、街に出る準備を行う――
――工場区に存在する闘技場には毎日魔物が送り込まれ、先日のミノタウロスの一件を反省して闘技場に魔物を送り込む際は腕利きの冒険者を同行する事が義務付けられていた。
しかし、今回の場合は闘技場に魔物を運搬する際、思わぬ事故が発生した。魔物を運搬中、唐突に得体の知れない仮面を付けた集団が現れ、襲撃を仕掛けてきた。冒険者達は襲撃者に対応したが、隙を突かれて魔物を捕まえた檻を運び込む荷車を破壊され、魔物が街中に脱走してしまう。
「馬車で運搬されていた魔物はコボルトが5体、その内の1体は亜種です!!襲撃者に関しては馬車を襲った後に行方を眩ませ、現在も捜索中との事です!!」
「ちっ……同行していた冒険者は何をしていた!?」
「それが襲撃者の手によって重傷を負わされ、現在は治療中との事です。全員が銀級冒険者で中には金級冒険者に昇格間近の者も居たそうですが……」
「ふんっ、何処の馬の骨ともわからぬ輩にやられるようでは王都の冒険者も質が落ちたな」
移動の際中に部下らの報告を聞いたリンは不機嫌さを隠さず、よりによって自分が担当を任されている地区で問題を起こした輩に彼女は憤る。必ずや魔物を見つけ出して討伐した後は一人残らず襲撃者を見つけ出す事を誓う。
「シノビ、クノ!!お前達は襲撃者の調査を行えっ!!正体が判明次第、私達に知らせろ!!」
「承知!!」
「了解した」
「よし、残りの者達は手分けして逃げ出した魔物の討伐を行え!!相手はコボルトだだと言っても油断するな!!住民にこれ以上に被害を及ぼす前に始末しろ!!」
『はっ!!』
リンの言葉を受けてシノビとクノは襲撃者が仕掛けてきた現場へと向かい、他の者は逃げ出したコボルトの捜索のために分かれる。この時にナイはビャクと行動を共にしており、ビャクの嗅覚でコボルトの位置を探す。
「ビャク、コボルトの臭いは分かるよね?あいつらの臭いを感じたらすぐに知らせるんだぞ」
「ウォンッ!!」
「なるほど、白狼種の嗅覚を頼りに捜索するのか。よし、そういう事なら私も一緒に行かせてもらうぞ」
「え?あ、はい……分かりました」
「何だ、その反応は……私と一緒に行動するのが不満なのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
ビャクの嗅覚を頼りにナイはコボルトの捜索を開始しようとすると、リンが同行する事を告げる。ナイとしてはビャクと自分だけの方が動きやすいのだが、上官であるリンの命令に逆らう事は出来ず、街中を移動してコボルトの捜索を行う。
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