閑話 《悪徳商人の後悔》
――黒猫酒場がイゾウによって破壊された後、商売敵が居なくなった事で向かいの酒場は客足が増えていた。しかし、それも最初だけで白猫亭が復帰すると、一気に客は減ってしまう。
「くそう、あの忌々しい女め!!」
「ご主人様、飲み過ぎでございます!!どうか落ち着いて下さい!!」
「これが落ち着いてなどいられるか!!」
酒場を経営も行っていた商人は屋敷にて苛立ちを抑えきれずに何本も酒を飲むが、いくら飲んでも酔う事は出来ない。やっと商売敵の黒猫酒場が潰れたと思ったら、今度は白猫亭なる酒場に商売敵の店主が地下に酒場を開いたと聞いて彼は憤る。
黒猫酒場は立地がいいため、最初の頃は商人は店ごと買い取って自分の物にしようとした。しかし、黒猫亭の女主人であるクロネに断られ、彼は手段を変えて黒猫酒場を潰すためにこれ見よがしに向かい側の建物を買い取って酒場に建て替えた。
最初の頃は黒猫酒場と比べて料理の質も落ちるので客足は伸び悩んだが、商人は裏で手をまわして黒猫酒場が食料を輸入していた商会から、酒場に食料を売らない様に注意する。仮に売りに出すとしても粗悪品の食料を売る様に指示を出す。
その後は黒猫酒場で働く従業員を懐柔し、仕事を辞めさせて自分の所の酒場で働かせたりなどを行い、遂には黒猫酒場を閉店寸前まで追い詰めた。極めつけに黒猫酒場が勝手に建物が崩壊したという話を聞いて商人は歓喜した。
「何なのだ!!どいつもこいつも……そんなに聖女騎士団が怖いのか!!」
「それは……当たり前では?」
「や、やかましい!!」
しかし、商人にとっては景気の良い話は黒猫酒場が潰れた事だけであり、白猫亭にて黒猫酒場の女主人が働いているという話を聞いた客は彼女の身を案じて酒場に通う客が激増した。
元々黒猫酒場は酒よりもクロネが作る料理が目当ての客が多く、現在の白猫亭には彼女の料理が目当ての客が殺到している。最近は碌に食料も輸入できず、まともな料理を出す事も出来なかったので客足は途絶えていたが、白猫亭の地下酒場では今まで通りに食事が食べられるようになった。これはヒナの手腕であり、彼女は脅しなどに屈しないちゃんとした商会と契約を結び、食料品を確保する。
「おのれ、何なのだあのガキは……儂の計画を見越したかのように邪魔をしおって!!」
最初の内は商人は白猫亭も潰そうとしたが、白猫亭を表向きの経営者はあの聖女騎士団の団長を務めるテンである。テンは国王からの信頼も厚く、公爵家のアッシュとも親しい間柄であり、彼女が率いる聖女騎士団の団員も曲者揃いである。
下手に白猫亭に嫌がらせを行えば聖女騎士団の連中から報復を受ける可能性もあり、しかもヒナはこれまで黒猫酒場が受けた被害をまとめ上げ、商人を訴えると申し出てきた。そのせいで商人は逆に追い込まれ、彼の酒場は今月中に閉店するかもしれない。
「ああ、どうしてこんな事に……」
「た、大変です!!ご主人様!!」
「何だ、こんな時に!?」
勝手に部屋の中に入ってきた使用人に商人は怒鳴りつけるが、その使用人は顔色を青くさせ、窓の外を指差す。その行動に商人は疑問を抱くと、使用人は震えた声で告げる。
「そ、外を見てください……聖女騎士団が屋敷の前まで押し寄せています!!」
「な、何ぃいいっ!?」
商人は知らなかった。これから彼は更なる地獄が待ち受けている事を――
※黒猫酒場を追い込んだ悪党が放置するのも違和感があったので話を加えました。
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