閑話 《最強の冒険者VSクラーケン》
――時は遡り、王都へと帰還する前に最強の黄金冒険者であるゴウカはマリンと共に危険区域に指定されている土地に訪れた。そこには凶悪な魔物が生息し、一般人どころか高階級の冒険者でさえも滅多に立ち寄らない場所だった。
ゴウカとマリンが訪れた場所は美しい湖が広がっており、その湖の上にて二人は小舟に乗っていた。マリンは身体を横にしている一方、ゴウカの方は黙って釣りを行う。
『……来たかっ!!』
「っ!?」
湖の水面に波紋が広がり、即座にゴウカは獲物が掛かった事を察すると、彼は大声を上げて立ち上がる。急に彼が動いたせいで小船が激しく揺れ動き、眠っていたマリンも慌てて起き上がる。
『ジュルルルッ!!』
湖の底から現れたのは巨大なイカであり、地球に生息するダイオウイカよりも大きい。何故、湖にイカのような魔物が存在するのかは不明だが、ゴウカは待ちわびた獲物に対して嬉しそうに声を張り上げる。
『大物だぞ、マリン!!今夜はイカ鍋だ!!』
『イカ鍋!?』
巨大なイカのような魔物、海に暮らす漁師の間では「クラーケン」と恐れられる存在を前にしてもゴウカは怯みもせず、二人がこの場所に訪れたのは湖に住み着いたクラーケンの討伐のためであった。
今から数年前、クラーケンの子供を捕獲に成功した商団が闘技場へ売りに出そうと王都へ向かう。しかし、その途中で大雨が降り注ぎ、川が氾濫して商団の乗っていた馬車は流されてしまう。
巡り巡ってクラーケンの子供は川の氾濫に巻き込まれてこの湖に辿り着き、数年の時を経て成長を果たす。この湖に生息するクラーケンの討伐の依頼を引き受けた二人は訪れた。
『ふははっ!!これほどの大物は久しぶりだな、マリン!!お前は手を出すな!!』
『大丈夫なの?』
『問題はない、多分な!!』
『ジュルルルッ!!』
クラーケンは湖の上に浮かぶ小舟に乗ったゴウカとマリンを認識し、敵と判断して無数の触手を伸ばす。このままでは船ごと沈められて二人とも死ぬかと思われたが、ここでゴウカは大剣を振りかざす。
『ぬんっ!!』
『ジュラァッ!?』
ゴウカは小舟から跳び上がると、危うく船が転覆しそうになり、マリンは必死にしがみつく。上空へ跳び上がったゴウカは身体を一回転させて大剣を振り下ろす。
『ふんっ!!』
『ジュラァッ――!?』
その一撃でクラーケンの頭部に大剣が突き刺さり、大量の血飛沫が舞い上がる。水中に大量の血が流れ込み、周囲一帯が赤く染まる。ゴウカの一撃によってクラーケンは絶命し、水面に浮かぶ。
ゴウカは無言のまま大剣を引き抜くと、動かなくなったクラーケンを見下ろし、嘆くように頭を抑えた。
『また……一撃で終わったぁあああっ!!』
『……ドンマイ』
『くそぉおおおっ!!』
戦闘が一瞬で終わってしまった事にゴウカは嘆き悲しみ、こうして彼はまた一つの伝説を残した。
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