第620話 オーロラ湖

「ビャク、どうしたの?何か気になるの?」

「クゥ〜ンッ……」



ビャクは湖に視線を向け、首を左右に振る。どうやら湖に近付くのが嫌ならしく、ナイは周囲を見渡して魔物の姿が居ない事を思い出し、ビャクの反応を見て湖に何かが潜んでいるのではないかと考える。



(もしかしてここら辺に魔物が見かけないのはこの湖のせいか?仮にそうだとしたら……不用意に近づかない方がいい)



ナイは湖に迂闊に近づきすぎないように気を付け、まずは薬草を探す。この際にナイは観察眼を発動させ、注意深く地面に生えている植物を確認しながら歩く。



(今の所は気配感知に反応はないけど……念のために隠密と無音歩行も発動させておくか)



ビャクは湖を近付こうとしないのでナイは一人で湖に近付き、その様子をビャクは心配そうに眺める。エルマに言われて薬草の特徴を思い返しながらナイは植物を確認し、それらしい薬草を探す。


捜索を開始してからしばらくすると、ナイは湖の方に視線を向け、ここである事に気付いた。それは湖の中に何かが光っている事に気付き、恐る恐る近付いて中の様子を伺うと、水中の方に花が沈んでいる事に気付く。



「あれは……!?」



よくよく確認すると湖の中に花が沈んでいるのではなく、どうやら水中の中で花が生えているらしく、エルマの言っていた薬草は湖の中に存在した。



(あれが魔力回復薬の薬草……なのか?)



ナイは湖の中を覗き込み、見た限りでは普通の湖にしか見えない。慎重にナイは指先で湖の水に触れ、臭いを嗅いでみるが特に何も感じない。仮に湖に毒の成分が混じっていたとしてもナイには毒耐性の技能があるのである程度の毒は防げるはずだった。


湖に沈んでいる薬草はかなりの数が存在し、これらを採取すればマホが助かるかもしれないと考えたナイは湖に潜って採取するしかないかと考えた。しかし、ここでビャクが湖に近付かない事、何よりも魔物がこの湖周辺に存在しない時点でナイは嫌な予感を抱く。



(湖の中に魔物が恐れる存在が隠れている?)



水中に何か得体の知れない存在が潜んでいるのではないかと勘付いたナイは冷や汗を流し、ゆっくりと距離を置く。今のところは湖に何も変化はなく、安全な場所まで下がろうとした時、水面の方に影が現れ、ナイの元へ近付いていた。



(何だ!?)



観察眼を発動していたのでナイはいち早く水面の異変に気付き、咄嗟に跳躍の技能を発動させて後方へと跳ぶ。それが功を奏し、水中に潜んでいた存在は派手に水飛沫を上げながら姿を現す。



「シャアアアッ!?」

「なっ!?ワニ……いや、トカゲ!?」

「ウォオンッ!!」



跳躍する前のナイが立っていた場所にワニとトカゲが合わさったような生物が乗り込み、それを確認したビャクがナイの元へ向かい、空中から下りてきたナイを背中に乗せる。


ワニとトカゲが合わさったような魔物は大きな顎を開き、ナイ達に視線を向ける。大きさ7、8メートルは存在し、ビャクよりも大きい。



「グルルルッ!!」

「シャアアアッ!!」

「くそっ……こいつ、湖の主か?こいつがいるからこの辺の魔物は近づかないのか?」



水中から出現した巨大なワニとトカゲが合わさったような魔物を確認してナイは冷や汗を流し、恐らくは赤毛熊級かあるいはそれ以上の敵だと認識した。



(もしもあのまま水に潜って薬草を取ろうとしていたらこいつに飲み込まれていたかもな……けど、ここで倒せば薬草が手に入る!!)



地上に出現した魔物に対してナイは旋斧と岩砕剣を構え、ここで倒せば湖にある薬草を採取できると考えた。しかし、そんなナイの考えを読み取ったかのように魔物は後ろに下がり、水中に引き返す。



「シャアッ!!」

「あっ!?待て……くそっ!!」

「ウォンッ……」



水中に潜ってしまった魔物を見てナイは失敗したと思い、水中に逃げられたらナイ達には追いかける事は出来ない。仮に水中に潜り込めばナイ達の方が不利となり、返り討ちに合う。


地上ならば戦える自信はあるが、水中のような場所では大剣のような重量のある武器では戦いにくい、そもそも魔法剣の類は頼れない。下手に水中で雷属性の魔法剣などを使えば感電する恐れもあり、他の魔法剣も色々と危険性が高い。


第一に仮に水中に魔法剣なんか使えば水中に沈んでいる薬草にも悪影響を与えかねない。どうにかナイは先ほどの魔物を地上に引き寄せ、倒して薬草を採取する方法を考える。



「よし……ビャク、力を貸してくれ」

「ウォンッ?」



ナイはある作戦を思いつき、ビャクに協力を求める。作戦を始める前にナイは準備を行うため、手持ちの装備を確認し、左腕に装着した腕鉄鋼を見て頷く。

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