第621話 囮大作戦
「――よし、都合の良いぐらいの大きさのボアを発見!!ビャク、やれ!!」
「ウォオオンッ!!」
「フゴォオオッ!?」
湖から一度離れたナイはビャクと共に草原に生息していたボアを発見し、追い掛け回す。ボアはビャクの姿を見ただけで怯えて逃げ出すが、今回ばかりはナイも見逃す事は出来ず、ある程度まで距離を詰めると拳を握りしめる。
「ここだ!!」
「フゴォッ――!?」
ビャクの背中からナイはボアの背中に飛び移ると、脳天に目掛けて拳を叩きつける。かつてナイは赤毛熊を一撃で殴り殺した事があり、いくらボアでも彼の拳を受けて無傷では済まなかった。
頭部の強烈な一撃を受けたボアは倒れ込み、しばらくは身体を痙攣させていたが動かなくなると、ナイはボアの大きさを確認して頷く。この程度の大きさならばビャクでも運び出せると判断し、ビャクに運ぶように手伝わせる。
「よし、ビャク!!こいつを湖まで運んで!!」
「クゥンッ……?」
ナイの言葉にビャクは不思議に思いながらも背中にボアを乗せると、改めてナイは湖へと戻る――
――湖へ戻ったナイはまだエルマ達が到着していないのを確認し、二人がいないのは逆に都合が良かった。もしも二人が居たらナイの作戦を聞いたら反対するかもしれず、この場に二人がいなければナイは作戦を躊躇なく開始する事が出来た。
「よし、ビャク……準備はいい?舌を噛まないように気を付けるんだよ」
「アガァッ……」
ビャクはナイの言葉に頷き、口を開く。それを確認したナイは腕鉄鋼に搭載されたフックショットを利用し、ミスリルの刃をビャクに噛みつかせて鋼線を引き寄せる。
「これで良し……鋼線を咬み切らない様に気を付けるんだぞ」
「ワフッ……」
ナイの言葉にミスリルの刃をしっかりと加えたビャクは頷き、これでナイが風属性の魔石を利用すればミスリルの刃を加えたビャクに引き寄せられる。左腕の鋼線を伸ばしながらナイはここまで運んだボアの死骸を確認し、剛力を発動させた。
「ふんぬらばぁっ!!」
「ワフッ!?」
剛力を発動させてナイは筋力を強化させると、ボアを持ち上げる。仮にもボアは普通の猪よりも一回りは大きい魔物なので相当な重量を誇るのだが、ナイはボアを軽々と持ち上げると湖に視線を向ける。
湖に目掛けてナイはボアを放り込むと、狙い通りに岸辺にボアの死骸が落下して水飛沫が舞い上がる。そしてボアの死骸が水中に沈むと、水面が揺れ動いて巨大なワニとトカゲが合わさったような魔物が出現した。
「シャアアッ!!」
「よし、今だっ……ビャク、頼んだぞ」
「ワフッ……!!」
ナイの狙い通りに水中に潜んでいた魔物はボアの死骸に嚙り付き、夢中に貪る。その間にナイは別の場所から湖に向かい、水面に飛び込む。
事前に衣服は脱いでおり、左腕の腕鉄鋼と下着姿の状態でナイは水中の潜り込み、魔物がボアの肉に夢中の間に水中に沈んでいる薬草の採取を行う。
(よし、これならあいつに見つかってもフックショットを起動させればビャクの元に戻れる……今のうちに取るんだ!!)
腕鉄鋼から鋼線を伸ばしながらナイは水中に生えている薬草の採取を試み、腕を伸ばす。だが、この時にナイの気配感知に複数の反応を感じ取り、疑問を抱く。
(何だ……!?)
先ほどボアに喰らいついた魔物とは別の気配を感知したナイは顔を見上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。湖の底の方から砂を舞い上げながら近付いてくる影が存在し、しかも一つではなく、複数の影がナイに向けて接近していた。
嫌な予感を浮かべたナイは即座に水底に生えている薬草に手を伸ばし、数本ほど引き抜くと即座に腕鉄鋼に搭載されている風属性の魔石を操作して鋼線を手繰り寄せる。地上に存在するビャクがしっかりと鋼線が取り付けられたミスリルの刃を噛み付いて固定しており、ナイは地上に引き寄せられる。
『シャアアアアッ!!』
「ぷはぁっ!?」
派手に水飛沫を上げながらナイは湖から脱出した直後、ボアに喰らいついていた魔物と同種の生物が水面に顔を出す。最初に現れた魔物と比べると体格は小さいが、それでも3、4メートルほどの大きさは存在した。
ボアに喰らいついていた湖の主と思われる魔物も異変に気付き、ナイの存在を確認すると主はボアを一気に飲み込み、改めて地上へと乗り込む。その間にナイは腕鉄鋼を手繰り寄せ、ビャクと合流を果たす。
「よし、十分だビャク!!逃げよう!!」
「ウォンッ!!」
ビャクの元まで戻るとナイはビャクからミスリルの刃を回収し、腕鉄鋼に装着すると彼の背中に乗り込む。薬草の採取には成功し、逃げようとした時に何処からか矢が放たれてナイ達の前に突き刺さる。
「うわっ!?」
「ウォンッ!?」
『シャアアアッ!?』
突き刺さった矢には風属性の魔力が付与されていたらしく、地面に衝突した瞬間に衝撃波のような風圧が発生し、土砂を舞い上げて土煙を作り出す。
ナイ達と魔物の間に土煙が舞い上がった事でお互いに見えなくなり、この時に近くの丘の上から弓矢を構えたエルマがナイ達に声を掛けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます