過去編 〈リョフの誓い〉

『た、大変だリョフ!!お前、確か北の方にある村に住んでいたんだよな!?』

『何だ、急に……』

『俺が世話している傭兵が偶然、お前の村の近くに寄った時、お前の村がどんな場所なのか見に行こうとしたらしいんだが……その村、大分前に盗賊に襲われて村人全員が死んでいたそうだぞ』

『なん、だと……!?』



傭兵仲間の言葉にリョフは信じられず、彼は村を出てから定期的に連絡を取っていた。村には家族が残っており、自分の夢のために村を出たとはいえ、リョフは別に家族の事を忘れたわけではない。


だが、1年ほど前から村との連絡が途絶えており、リョウフも少し気になっていたが傭兵としての仕事が忙しくなり、村に戻る暇もなかった。傭兵仲間から話を聞いたリョフは自分の村へと急いで帰る。




――結果から言えば村は滅ぼされており、そこには人間は一人も暮らしていなかった。村の中には大量の墓標が並べられており、その中にはリョフの家族の墓もあった。




調べたところ、今から1年ほど前に盗賊に村は襲われて村人全員が殺されたという。しかも村を襲ったのがただの盗賊ではなく、獣人族で構成された盗賊だと判明した。


この村は最近は王国に税金を抑め、獣人国に税を納める事を辞めていた。その話を聞いたリョフは盗賊がここへ訪れたのは偶然ではなく、獣人国の仕業だと判断する。しかし、明確な証拠がない以上は王国も何も手を打てず、この村は放棄される。



『父上、母上……何故だ、何故死んでしまった』



流石のリョフも家族の死は嘆き悲しみ、村を滅ぼした盗賊を探し出して復讐を考えた。だが、既に1年前の出来事であり、盗賊はもう獣人国に引き返して追う手がかりはない。



『俺は……俺はぁっ!!』



この村を出る時、リョフはこの国一番の将軍となって栄光も名誉も権力も掴むと誓った。だが、実際の彼は傭兵として暮らしていくことに満足し、手に入れたのは「武力」だけだった。その事実にリョフは嘆き、何一つとして彼は自分の目的を果たしていない事に気付く。



『いや、違う……俺はまだ、諦めない!!父よ、母よ、友よ……天上から見ていろ!!俺は必ず、この武力ちからで夢を掴む!!』




今一度にリョフは自分の目的を思い出し、そして死んでいった人間に誓う。必ずや自分はこの村を出る時に掲げた目的を果たすため、彼は傭兵を辞めた――






――傭兵生活で培った技術を生かし、次にリョフが目指したのは冒険者だった。当時は魔物は少なく、滅多に遭遇できる存在ではない。冒険者の数も今よりもずっと少なく、傭兵と比べたら儲かる仕事ではないと認識されていた。


そんな冒険者稼業にリョフが付いたのは魔物という普通の人間よりも圧倒的な力を誇る存在に挑めるからだった。リョフは自分の力が人を越えた存在として捉えられていた魔物にどれだけ通じるのかと試したく、強大な魔物を倒した時、彼は自分が人を越えた存在になり得ると思った。



『俺に残されたのはこの武力ちからのみ……ならば、何処まで通じるか試すのも悪くはない』



傭兵として培った力を利用し、リョフは冒険者として活動して自分の武力が何処まで魔物に通じるのか試したく思った。そして彼は危険地に赴き、あらゆる魔物を倒す。


冒険者としてリョフは各地に存在する魔物の生息地に赴き、魔物を倒し続けてきた。これまでは傭兵として人間ばかりだったが、魔物との戦闘は対人戦以上の緊張感を抱く。



『ブモォオオオッ!!』

『ぐうっ……これが、魔物か!!面白い!!』



ミノタウロスと初めて対峙した時、リョフは戦場でも味わったことない恐怖を抱く。圧倒的な力を持つ存在に初めて出会い、彼は恐れた。しかし、同時に歓喜する。



『ぐおおおっ!!』

『ガハァッ……!?』



激戦の末、リョフは身体中が血塗れになりながらもミノタウロスの角を力ずくで引き剥がす。止めを刺す。死闘を乗り越えてリョフは強くなり、更に強い魔物を求めた。


魔物を倒す度にリョフは身体に怪我を負い、時には死にかけた。しかし、死闘を繰り返す度に彼はより強くなり、遂には冒険者の最高階級である黄金冒険者に成り上がる。



『あれがリョフ……』

『伝説の武人と謳われる男か……』

『凄い迫力だ……』



何時の間にかリョフは他の人間から畏敬の念を抱かれる。この時にリョフは当初の目的だった「名誉」を手にした。しかし、彼は満足せず、リョフは更なる強さを求め続けた。


だが、魔物を相手に倒し続けている内にリョフは強くなったが、ある時期を境に彼は気づく。それは自分の力が高まる感覚を感じられなくなり、彼は自分の「限界」を知った。今までは自分が何処までも強くなれると信じて生きてきた。しかし、どんな魔物と戦っても、人間と戦っても、彼は苦戦する事すらなくなり、自分が強くなり過ぎた事に気付く。



『馬鹿な……俺はもう、強くなれないのか……!?』



王都へと戻ったリョフは当時の冒険者ギルドが確認していた魔物の中で最も危険な存在として恐れられていた魔物を倒した時、彼は自分が強くなる感覚を感じなかった。彼はこの時、既に自分のレベルが高すぎてどれほど魔物を倒して経験値を得てもレベルが上がらなくなった事を悟る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る