過去編 〈リョフの過去〉

――リョフは元々は王国の北の地方の生まれだった。獣人国と王国の領地の境に存在する村で生まれ、彼の父親は村長を務めていた。


二つの国の境目に存在した頃から村には両国の軍隊が訪れ、ここは自分達の国の領地だと言い張り、税金を要求してくる。貧しい村なので両国からの税金など到底支払えず、かといって一方の国に税金を納めるともう一方の国に敵視される。


村を捨てて別の地方に暮らすように主張する人間もいたが、それでも村長はこの村に留まる事を決断する。彼の提案に従えぬ者は村を出ていくが、村長の息子であるリョフは父親の言う通りに従う。



『父上はどうしてここを離れられないのですか?』

『それはな、この村は儂等の故郷であり、そして儂等の先祖が勝ち取った領地だからじゃ』



父親の話によるとリョフの先祖はかつて国の将軍だったらしく、この地は戦の功績で得た領地だという。しかし、将軍だった先祖はある時に戦に敗れ、その子孫が領地を受け継いだが、家は没落してしまう。


結局は現在のリョフの家の人間は平民の位だが、父親は先祖が守り抜いたこの地を離れる事は出来ないと告げた。そんな父親の話を聞いてリョフは正直に言えば落胆した。



『顔も見た事がない死んだ人間の名誉のために父上はこの場所を守る?意味が分からない……』



リョフは父親の言う事が理解できず、先祖がどれほど偉大な存在だろうが、死んでしまえばそこで終わりである。父親は亡くなった先祖の栄誉に縋りついているようにしか見えず、リョフは決意した。



『俺は違う、力も、名誉も、栄光も……自分の手で掴み取って見せる』



他人の力を借りず、リョフは何時の日か自分の力のみであらゆる物を掴み取る事を誓う。そして彼はその夢を叶える力を持っていた。生まれた時からリョフは武人の才能に恵まれていた。


幼い時からリョフは同世代の子供と比べても体格も力も大きく、人間でありながら15才を迎えた時には既に身長は父親を越して村一番の怪力を誇る。そして成人すると彼は旅に出る。



『俺は父とは違う……この手で全てを掴む』



家族を残し、リョフは王都へ向かう。彼は偉大な先祖を越えるため、この国の大将軍になるべく旅に出た――





――しかし、現実はそんなに甘くなかった。王都に辿り着いたリョフは持ち前の力を見せつけ、兵士に昇格を果たす。だが、彼は偉そうに指示を出す上の人間に反発する。



『貴様!!上官の命令を無視するとは何事だ!?』

『……何故、お前のように威張り散らすだけの弱い人間の言う事を聞かなければならない?』

『な、何だと!!貴様、上官になんて口を!!』

『お、おい!!止めろよ、何してんだよお前!?』

「申し訳ありません!!こいつは田舎から来たばかりで常識を知らなくて……」



兵士になったリョフは運がない事に貴族出身というだけで大した功績もないのに将軍に成り上がった男の配下になった。リョフからすれば意味が分からず、どうして自分よりも圧倒的に弱くて無能な人間の指示に従わなければならないのかと理解できなかった。



『俺は貴様の命令など聞かんぞ』

『ふ、ふざけやがって……ならば貴様の首、叩き斬って……!!』

『やれるものならやってみろ!!』

『ひいっ!?』



将軍の男は一括されただけで腰を抜かし、小便を漏らす。そのあまりの情けない姿にリョフは殺す気もうせてしまい、彼は失望した。仮にも将軍という立場に就く男がこの程度の存在なのかと嘆く。


父親からの話では国を守る将軍は立派で偉い人間にしかなれないと幼少の頃から聞かされていた。しかし、実際に相対した将軍はリョフが思っていたよりも弱く、そして愚かな男だった。



(こんな男が将軍だと……この国はそこまで腐っていたか)



自分が憧れさえも抱いていた将軍という存在にリョフは落胆し、その日を境に彼は兵士の職を辞めて王都を出ていく。しかし、この時に彼が出会っているのが将軍の中でも無能な人間でなければ彼の運命は変わっていたかもしれない――






――次にリョフが職に就いたのは傭兵だった。腕っ節に自信があるリョフは傭兵として活躍し、戦場に赴いて勝ち続けた。この時に彼は技術も磨き、20才を迎える頃には彼は傭兵の間でも有名な存在になった。



『リョフ、やっぱりお前は最高だな!!』

『明日も頼むぜ、兄弟!!』

『ああ、任せろ……』



気付いたらリョフは他の人間と接するようになり、他の傭兵からも慕われる。戦場において強い人間ほど頼れる存在はおらず、リョフは裏表のない性格もあってか彼は意外と人気があった。


兵士として暮らしていた頃よりもリョフは充実した生活を送り、信用できる傭兵の仲間や戦う度に自分は強くなる事を実感し、彼の人生も幸福の時間を過ごす。しかし、傭兵として生きていてから5年ほど経過した頃、彼の元に悲報が届く。

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