過去編 〈最強の冒険者リョフ〉
――シャドウが闇ギルドの長から暗殺依頼を引き受けてから翌日、冒険者ギルドでは黄金冒険者である「リョフ」と、当時はまだ現役の冒険者であったギガンがギルドの訓練場で戦っていた。
「うおおおっ!!」
「ふんっ!!」
訓練場に激しい金属音が鳴り響き、幾度も地面に衝撃が走った。石畳製の試合場の上で闘拳を装備した若かりし頃のギガンと、それに向かい合う白髪の男性が存在した。この男こそが当時最強の冒険者と言われた「リョフ」である。
リョフの年齢は30代半ばであり、純粋な人間ではあるが髪の毛は白髪だった。昔、事故に遭遇した時に髪の毛が白く染まり、そのせいで彼は「銀獅子」の異名を誇る。
このギガンとリョフこそが当時の冒険者ギルドの代表格であり、ギガンの方が先輩に当たる。ギガンはリョフに対して全力の拳を放つ。
「喰らえっ!!」
「……その程度か?」
「うおっ!?」
全力で放った拳にも関わらず、リョフは手にしていた「方天画戟」で正面から弾き返す。全ての種族の中でも筋力に秀でているはずの巨人族、その巨人族の中でも猛者の部類に入るギガンの攻撃をリョフは正面から弾き返した。
「す、すげぇっ!?あの攻撃を弾くなんて……」
「流石はリョフさんだ!!」
「馬鹿野郎、ギガンさんだってこれからだ!!」
二人の試合を観戦していた冒険者達は騒ぎ出し、訓練とは思えない程の気迫で戦う二人に目が離せない。やがてギガンは真の本気を発揮させる。
「ぐおおおっ!!」
「……鬼人化か、面白い。全力で来い」
ギガンは雄たけびを上げると、彼の身体中の血管が浮き上がり、皮膚が赤みを帯びていく。ギガンは魔操術を習得しており、人間で言う所の強化術を発揮させた。巨人族の場合は強化術を発動させると鬼のような風貌に変化するため、別名として「鬼人化」と呼ばれている。
全力を解放したギガンはリョフに対して両手の拳を重ね合わせ、同時に突き出す。その攻撃に対してリョフは正面から受け止めた。
「がああああっ!!」
「ぐふぅっ!?」
「う、受け止めた!?」
「馬鹿な、死んじまうぞ!!」
避ける事も出来たはずなのにリョフはギガンの全力の一撃を正面から受け止め、石畳製の試合場の端まで追い込まれる。しかし、リョフは目を見開き、自身も強化術を発動させて真の力を解放した。
「ぐがぁああああっ!!」
「うおっ……!?」
「と、止めた!?」
「馬鹿な……に、人間じゃない……!!」
リョフはギガン以上の気迫を放ち、彼の攻撃を押し留めた。その光景を見ていた他の者達は唖然とするしかなく、遂にリョフはギガンの両拳を弾き返す。
「ぬんっ!!」
「ぐあっ!?」
「終わりだぁっ!!」
両腕を弾かれたギガンは隙を見せてしまい、リョフは方天画戟を振りかざす。しかし、直後に背後から何かが近付いてくる事に気付いたリョフは反射的に方天画戟を振り払う。
金属音が鳴り響き、リョフは後方から投げ込まれた武器の正体が「鉄槌」だと気付く。彼は武器が投げられた咆哮を睨みつけると、そこには若かりし頃のハマーンが立っていた。この時の彼はまだ黄金冒険者ではなく、胸元には金級のバッジを取り付けていた。
「ハマーン……貴様、何の真似だ?」
「何の真似、とはおかしなことを言うのう。お主、儂が止めておらんかったらギガンを殺すつもりだったな」
「それの何が……!!」
ハマーンの言葉にリョフは言い返そうとしたが、ここで周囲の冒険者の異変に気付く。先ほどまで騒いでいた冒険者達だが、今のリョフを見る表情は恐怖に染まっていた。
「もうお主は傭兵ではない……いい加減に馴染まぬか」
「くっ……!!」
「リョフ……」
リョフは何も言い返せず、彼は試合場を降りると観戦していた冒険者達は慌てて道を開く。その後姿をギガンとハマーンは見送り、やがてハマーンはため息を吐き出す。
「伝説の傭兵と謳われ、最強の武人……何時しか相手は人だけでは満足せず、魔物と戦うために冒険者になった男、か」
「何だ、それは?」
「最近の奴の噂じゃよ。それよりもお主、無事か?」
「……拳が砕けたな」
ハマーンの問いかけにギガンは首を振り、彼の両手は闘拳が粉々に破壊され、拳の方は完全に砕けていた。それを見たハマーンは驚愕の表情を浮かべ、一方でギガンは悟る。
「最近は無茶をし過ぎたからな……何時の日かこうなる事は分かっていた。それでも、最強の武人と決着を付けられるのであればと思って挑んだが……結局は届かなかったか」
「お主……すまん、儂のせいだ。お前の力に耐えられる武器を用意していれば……」
「謙遜するな、破壊されたとはいえ、この闘拳があったからこそ俺はここまでこれた。後悔はない……後悔はないんだ」
自分に言い聞かせる様に呟くギガンに対し、ハマーンは何とも言えない表情を浮かべた。そしてこの日を境にギガンは正式に冒険者を引退した――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます