過去編 〈シャドウ〉

――たった一夜にして聖女騎士団によって闇ギルドは壊滅に追い込まれ、長は隠れ家にて震えていた。彼は聖女騎士団の力を侮り、追い詰められていた。



「くそぉっ……あの女め、まさかあれほどの化物とは……これからどうすればいいのだ」



配下は殆ど捕まってしまい、捕まった人間の中には幹部も含まれていた。闇ギルドの長が隠れているこの場所も安全とは言い切れず、いつ聖女騎士団が乗り込んでくるか分からない。


これから自分はどうなるのかと長は怯えていると、ある違和感を抱く。それは自分の警護を行っていた人間達の姿が消えていた。



「んっ!?おい、どうした!?誰かいないのか?」

『……あいつらなら逃げだしたぞ。あんたを置いてな』

「なっ!?き、貴様は……!?」



長は声を聞いた途端に驚愕の表情を浮かべ、暗闇の中からシャドウが現れる。この時代から長はシャドウと面識があり、唐突に彼の前に現れては情報を伝える。



『俺の忠告を無視したな、あの女には迂闊に手を出すなと言ったはずだぞ』

「き、貴様のような得体の知れない奴の言う事など……」

『信じなかった結果がこの様だ。もう間もなく、王都のは闇ギルドは駆逐されるだろう?』

「ぐうっ……!?」



シャドウの言葉に長は言い返せず、実は数日程前にシャドウは長の前に現れた。彼は長がエリザを利用してジャンヌを呼び出し、捕縛を計画した事を知っていた。


数日前の時点ではジャンヌの捕縛の情報を知っているのはエリザと闇ギルドの幹部だけのはずだが、何故かシャドウはその情報を把握しており、警告を行う。長は彼の言う事を無視して計画を実行したが、その結果がこの様であった。



『俺の言う事を少しは聞く耳を持ったか?』

「……ど、どうすればいいのだ。このままでは王都から逃げるしか……」

『あんた、王都の外に出て生き延びられると思っているのか?』



シャドウの言葉に長は言い返せず、味方も誰もいない状況で一人だけで生き残る自信などなかった。既に長は顔を見られており、国中に指名手配されて捕まるのが目に見えていた。



『あんたが生き残る方法はただ一つ……あの厄介な聖女騎士団を始末するしかない』

「なっ!?そんな事が出来るはずがないだろう!!」

『不可能ではない、あの騎士団の要は王妃だ。王妃さえ消せば騎士団は解体するだろう』

「馬鹿なっ!!お前はあの王妃の事を何も知らないからそんな事を……!!」

『よく知っているさ、あの女の事はな……だからこそ殺す事が出来る』

「な、何!?」



ジャンヌに勝てると断言するシャドウに対して長は冷や汗を流し、この男とは最近知り合ったばかりだが、決して冗談の類を口にするような男ではない。



「本当に殺せるのか、あの女を……」

『……金貨500枚だ。それだけ払えば俺と相棒がしっかりと始末してやる。それぐらいの金はあるだろう?』

「うっ……!!」



闇ギルドの長はシャドウの提示した金額に心当たりがあり、彼はギルドに万が一の場合に備えて逃走資金として隠し財産を持っていた。その金額が丁度金貨500枚であり、シャドウはそれを見越して要求する。



「わ、分かった……本当にお前があの女を殺す事が出来たなら支払ってやろう……」

『契約成立だな。なら、数日は他の奴等に見つからない様に隠れていろ。それぐらいは出来るだろう?』

「わ、分かった……」



こうして闇ギルドの長とシャドウの関係は始まり、まさかこれから10年以上も長はシャドウに頭が上がらない関係性になるとは思いもしなかった――

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