第604話 真犯人

(もしや、あの者は……利用されているだけ?では他に犯人がこの建物の何処かに!?)

(可能性はあります。しかし、今はあの3人を助けましょう)

(……そうですね)



酒場内に囚われている3人にナイ達は視線を向け、まずは3人を助ける事が先決だと判断した。上の階は調べつくしたので共犯者がこの地下の酒場の何処かに隠れている可能性もあるが、今は一刻も早く3人を救う方が先決だった。


ナイ達は3人を救うため、酒場に踏み込む事にした。まずは椅子に座っている男に対し、最初に仕掛けたのはリンダであり、彼女は酒場に現れると凄まじい速度で男の元へ向かう。



「はああっ!!」

「えっ……うわっ!?だ、誰だ!?」

「えっ……な、何!?」

「わあっ!?」

「だ、誰!?」



リンダが男の元まで一気に駆けつけると、彼女を見て慌てて立ち上がった男は短剣を構えるが、即座にリンダはその腕を振り払い、彼の腹部に拳を放つ。格闘家であるリンダの強烈な一撃を受けた男は白目を剥き、膝を着く。



「ぐふぅっ……!?」

「今です!!早く人質の皆さんを!!」

「はい!!」

「承知したでござる!!」



ナイとクノは急いで捕まっている3人の元へ向かい、縄を解いて彼女達を救い出そうとした。この際にクノは周囲を警戒し、縄を解くのはナイが行う。



「皆、もう大丈夫だからね」

「あ、貴方は前に店に来た子……?」

「ナ、ナイ君……来てくれたんだね」

「……ごめんなさい」

「大丈夫、もう安心して……うわっ!?」

「ナイ殿!?」



3人の縄をナイが同時に解放した瞬間、何故かヒナ達はナイの身体にのしかかり、抑え込む。その3人の行動にナイは驚き、クノも何が起きているのか分からずに戸惑う。


リンダは犯人の男を拘束していたので対処に遅れ、いったい何が起きたのかと彼女は3人の様子を伺うと、3人とも首筋に血が流れている事に気付く。それを見てリンダは目を見開き、警告した。



「御二人とも気を付けて!!人質も噛まれています!!」

「えっ!?という事は……まさか!?」

「は〜い、大正解!!」



酒場のカウンターにて誰かが拍手する音が響き、全員が驚いて振り返るとそこには少年が立っていた。年齢は10才ぐらいであり、容姿は整っているので一見すると少女にも見える。もしかしたら少年ではなく、少女かもしれないが恰好は男子の物だった。


少年の傍には酒瓶が置かれており、どうやら男の傍に置かれていた空の酒瓶がこの少年が飲んでいた物らしい。少年は椅子の上に座った状態で笑みを浮かべ、拍手を行う。



「いやいや、驚いたよ。さっきから妙な気配をすると思ってたけど、まさかこんな場所にまで忍び込んでくるなんてね」

「まさか……お主が吸血鬼でござるか!?」

「子供に化けているなんて……!!」

「ちょっと、それは失礼じゃない?こう見えても僕は君達よりも年上だよ」

「くっ……3人に何をした!?」



ナイはヒナ達に抑えつけられ、身動きが取れなかった。そんなナイを見て少年はコップに酒を注ぎながら答える。



「勿論、僕の下僕にしたんだよ。ああ、そうそう。ついでにいうとそっちの男はもう僕の支配から解除されてるよ。いくらいう事を聞くといってもむさくるしいおっさんが興奮している姿なんて見ても面白くもなんともないからね」

「なっ……!?」

「お姉さんは倒したのは正気に戻った一般人だよ。どう、罪悪感はないの?その男は僕に逆らう事も出来ず、こうしてここに一緒にいただけ。まあ、酒の相手がいてくれて僕は楽しかったけどね……特に怯えている奴と話すのは好きなんだ」

「下衆め……!!」



クノは両手にクナイを構え、リンダの方も自分が騙された事に憤りを感じる。しかし、そんな二人に対して少年は余裕を崩さず、自分の僕とした3人を指差す。



「女の子を傷つけるのは僕の主義には反するんだけど、言っておくけど僕を捕まえようとしたその子達が許さないよ。僕が一言命令するだけでその子達を自殺させる事も出来るんだよ?」

「なっ!?」

「卑劣な……!!」

「じゃあ、とりあえずは大人しく3人共捕まって貰おうか」



勝利を確信したように少年は酒場に降りたナイ達に自分に逆らわない様に言い渡し、カウンターに隠していた縄を放り投げる。少年は縄を渡したのはリンダであり、彼女に命じた。



「とりあえずはそこのお姉さんは他の二人を縛って貰うよ。言っておくけど、抵抗はしないでね」

「くっ……」

「お姉さんが従わないなら僕の僕になった女の子達にさせるだけだよ。でも、その子達は噛みついてから結構時間が経ってるから今は極度の興奮状態に陥っていて何をしでかすか分からないな〜」

「はあっ……はあっ……」

「うっ……頭が……」

「か、身体が熱いよ……」



少年の言葉に反応する様に3人は頬を紅潮させ、あからさまに普通の状態ではなかった。それを見たリンダは仕方なく、縄を拾い上げてクノと抑えられているナイの元へ向かう。

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