第605話 僕には逆らえない
「言っておくけど、しっかりと縄で結ばないと怒っちゃうよ。ちなみにその縄は特別製だから高レベルの人間でも簡単に引きちぎれる事はないから安心してね」
「くっ……申し訳ございません」
「気にしないでいいでござる」
「ううっ……ご、ごめんね……」
「身体が勝手に……」
「くぅっ……」
「皆……いいよ、気にしないで」
ヒナ達は完全に意識が奪われたわけではないらしく、3人とも少年の言葉には逆らえない様子だがナイを気遣う。それでも身体の方は彼を捕まえたままであり、逆らう事は出来ないらしい。
クノの両手を縛りつけた後、今度は足の方も縛り付けて彼女を座らせる。リンダは改めてナイに近付くと、少年は3人に離れる様に指示を出す。
「お姉さんたち、もうお兄さんを離していいよ」
「くっ!?」
少年が命じた途端にナイを抑えつけていた3人は離れ、代わりに彼の前にリンダが近寄る。この時にリンダは縄で縛るふりをしてナイに小声で話しかけた。
「隙を見て私が抑えます。その間にナイさんは人質の三人を……この程度の縄ならナイさんならどうにか出来ますね?」
「……分かった」
リンダの意図を察し、ナイは大人しく両手で縛り付けられる。それを見た少年は満足そうに頷き、改めてリンダに近寄るに促す。
「よくやってくれたねお姉さん。それじゃあ、今度はお姉さんを僕の味方にしちゃおうかな」
「……私に噛みつく気ですか?」
「そうだよ、でもお姉さん……只者じゃなさそうだからね。だから、これを飲んでくれる?」
少年はコップを取り出すと酒を注ぎ、更に何を思ったのか自分の指を口元に近付け、鋭い犬歯で指先を切り裂く。それを見たナイ達は驚くが、少年は痛そうな表情を浮かべながらもコップに血を注ぐ。
酒と自分の血が入ったコップを少年は机の上に置くと、自分は離れて地上へと繋がる階段の方へと向かう。そして机の上に置いたコップを指差してリンダに指示を出す。
「それを飲んでよ。僕の血が入っているから、それを飲めばお姉さんも僕の虜に出来るからさ。知ってる?吸血鬼はね、唾液よりも血液の方が相手を操れる時間が長くなるんだよ」
「なっ……!?」
「お姉さん、強そうだし……本当はそのおっさんを捨て駒にして逃げるつもりだったけど、気に入ったよ。お姉さんを利用して僕はこれから生きて行こうかな」
「ふざけた事を!!」
リンダは少年の言い分に激怒するが、少年は表情を一変させて壁際に立っている3人を指差す。まだ吸血鬼の唾液の効果は切れておらず、少年の命令でヒナ達は命を落としかねない。
「言葉には気を付けなよ。今すぐに3人に舌を噛んで死ねと命じる事だって出来るんだよ」
「くぅっ……」
「さあ、どうするの?」
「待て!!それなら僕が飲む!!」
「ナイ殿!?」
ナイの発言にクノもリンダも驚くが、ナイは手足を縛られた状態でありながら力を込めると、剛力を発動させて無理やりに縄を引き千切る。
「うおおおっ!!」
「なっ……そんな馬鹿なっ!?」
「ナイ殿……どうして!?」
「な、何てことを……」
少年の前でナイは剛力を発動させ、彼が用意したという特別製の縄を力ずくで引きちぎる。それを見た少年は動揺し、一方でナイは立ち上がると両手を上げながら近付く。
人質の拘束用として少年が用意した縄は巨人族だろうと引きちぎれないように用意した特製の代物であり、その縄を力ずくで引きちぎったナイの力に少年は驚きを隠せない。しかし、同時に少年はナイの力を知って考えを改める。
「へ、へえっ……凄いね、お兄さん。そんなに強そうには見えないのに……気に入ったよ、そんな力があるのならお兄さんを味方にした方が良さそうだね」
「分かった、従う……だからリンダさんに手を出すな」
「駄目です!!ナイさん、貴方が操られたら……!!」
「おっと、動かないでよ!!」
リンダはナイが少年の操り人形になるぐらいならば自分が犠牲になろうと机の上のコップに手を伸ばすが、少年が即座にリンダを制止した。少年は考えた末、今生き残るためには強い力を持つ人間が必要だった。
「よし、気が変わったよ。お兄さんがそのコップを飲んでよ」
「だ、駄目です!!私で十分でしょう!!」
「うるさいな、いいから早く飲みなよ。もう時間がないんだからさ……言う事を聞かないと皆殺しちゃうよ!?」
「分かった……僕が飲むから他の人間に手を出すな」
緊張した面持ちでナイは少年の血が入ったコップを取り出し、それを口に含む。それを見届けた少年は笑みを浮かべ、一方でリンダとクノは表情を青ざめる。先に操られた3人もそのナイの姿を見て悲し気な表情を浮かべた。
「そ、そんな……」
「ナイ君、駄目……」
「ああっ、何てことをっ……」
「くぅっ……!?」
コップの中身を飲んだ途端にナイは頭を抑え、興奮状態に陥ったのか頬を赤くさせる。その様子を見て少年はナイが自分の僕と化したと判断し、命令を下す。
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