第599話 吸血鬼の能力
「吸血鬼は他の生物に噛みつき、血液を吸い取る際に特殊な唾液を体内に送り込みます。この唾液には特殊な成分が含まれており、吸血鬼に従わなければならないと思い込みます」
「じゃあ、今まで犯罪を犯した人達は……」
「ええ、きっと吸血鬼に指示されていたのでしょうね」
リンダによれば吸血鬼は他者から血液を吸い上げる際、特殊な唾液を体内に送り込む事で従わせる事が出来る。しかも噛みつかれた人間は吸血鬼に逆らう事が出来ず、謂われた通りに行動を行う。
「じゃあ、噛みつかれた人はずっと操られたままなんですか?」
「いいえ、吸血鬼の唾液には永続効果はありません。せいぜい、1時間程度で効果は切れるはずです。しかし、その1時間の間は操られるという事です」
「1時間……」
「厄介なのは今までの被害者はまともに吸血鬼の姿さえ確認していない事ですな……どんな相手に襲われたのか、どんな指示を受けたのかさえも覚えていないそうです」
今まで拘束された犯罪者は自分達が操られている間の記憶は曖昧らしく、誰に指示されたのかも覚えていないらしい。しかし、全員の証言が何者かに襲われ、首筋に噛まれたという事だけは一致していた。
これまでに起きた金銭目的の強盗事件は吸血鬼が関わっている事は確定し、警備兵としても見回りを増やしてはいるが一向に吸血鬼の手掛かりさえ掴めていない。吸血鬼は人間と瓜二つの格好をしている事もあり、外見で見分けるのは難しいらしい。
「吸血鬼って犬歯が発達しているんじゃないですか?それで見分けるとかは……」
「不可能です、人間に化ける時は吸血鬼は自分の犬歯を削り取ります。普通の人間とは違い、牙の方はまた生えてくるそうです。外見は人間に見えても魔人族ですから私達とは根本的に身体の構造が違うんです」
「なるほど……」
吸血鬼は犬歯が普通の人間よりも発達しているので歯を見れば見分ける事が出来るのではないかと思われるが、リンダによれば犬歯を削り出して人間社会に溶け込む吸血鬼もいるらしく、当てにはならない。
他に吸血鬼を見分ける方法があるとすれば蝙蝠のような羽根や尻尾を生やしているというが、これらの類すらも吸血鬼は隠し通せるという。
「犬歯と同じように羽根や尻尾の類で見分けるのも難しいです。恐らく、街に入る時は羽根や尻尾は切り落としているでしょう」
「切り落とす!?」
「人間に完全に化けるためにはそれぐらいは必要です。それに切り落とすといってもすぐに生えてきます。魔人族ですから再生能力も普通の人間とは比べ物になりません」
「そ、そうなんですか……」
「吸血鬼を見分けるには裸を確認する以外に方法はありません。しかし、そんな方法を実践するわけにはいきませんので……」
吸血鬼を完璧に見分ける方法があるとすれば片っ端から街の住民を裸にして身体を確認するしかない。しかし、そんな方法を実践できるはずがなく、他に吸血鬼を見分ける手段もない以上は現状ではどうしようも出来なかった。
「吸血鬼を見分ける方法があればいいのですが、どうしようもありませんね」
「何か、被害者に共通点はないんですか?」
「そうですね……強いて言えば犯罪を犯した者は全員が男性です。ですが、年齢も種族も外見もバラバラで特に共通点はありません」
「そうなんですか……」
「我々も連日、見回りを行っていますが吸血鬼らしき存在は確認できず……」
「ですが、被害を受けているのはお金に余裕のある貴族や商人です。吸血鬼の目的は一般人を利用し、彼等が貴族や商人から強奪した金銭や金品を回収して姿を消しています」
これまでの強盗の件数は5件であり、被害を受けた全員が裕福な貴族や商人だと判明している。吸血鬼は一般人を利用して強盗させ、自分は決して危険を犯さない。
「犯人は卑劣です。自分の身を危険に晒さず、一般人を利用して自分は安全な場所で待機し、仮に一般人が捕まったとしても自分の正体は気づかれない……このような輩を放置するわけにはいきません」
「おおっ、ではリンダ様もご協力下さるのですか!?」
「お嬢様に許可を貰う必要はありますが、正義感の強いお嬢様なら断るはずはありません。この際に黒狼騎士団にも連絡しておきます」
「それは心強い!!」
リンダが協力を申し出ると警備兵達は嬉しそうな声を上げ、この際にリンダはナイに視線を向けると、彼女はこの際にナイにも頼み込む。
「ナイ様も私達に力を貸してくれませんか?」
「えっ!?」
「勿論、これは正式な依頼です。もしも引き受けて下さるのならば相応のお礼をしましょう。どうでしょうか?」
いきなり助力を申し込まれたナイは戸惑うが、先ほどの強盗の事を思い出す。もしもナイが助けなかった場合、一人の少女が死んでいたかもしれない。
城下町に吸血鬼なる危険な存在がいるのであれば人々も安心して暮らす事は出来ず、それはナイにとっても無関係ではない。相手が吸血鬼だろうがなんだろうとナイは放置できないと判断し、協力を承諾する。
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