第572話 妖刀「風魔」
「少々騒ぎすぎたな……今回は退かせてもらうぞ、シノビ!!」
「待て!!逃がすと思って……ぬうっ!?」
「ふんっ!!」
イゾウは風魔を振り払うと、再び風の斬撃が放たれ、それに対してシノビは両手の短刀を構えて受け止める。そのまま彼は壁際まで追い込まれるが、どうにか短刀を左右に振り払い、風の斬撃を拡散させた。
「ふんっ!!」
シノビは風の斬撃を振り払うと、酒場全体に風圧が走り、窓が破壊される。この時にイゾウは外へ抜け出し、そのまま暗闇に紛れてしまう。
逃げ出したイゾウを見てすぐにでもシノビは追いかけようとしたが、ここで彼は建物が軋み始めている事に気付く。どうやら先ほどの戦闘で建物が限界を迎えようとしているらしく、このままでは崩れしまう。
(いかん……ここの店主が危ない!!)
気配感知を発動させたイゾウはまだ建物の地下に気配を感じ取り、店主がまだ倉庫に閉じ込められている事に気付く。どうやらイゾウは店主を気絶させた後に罠を仕掛けたらしく、彼は急いで倉庫へと向かう。
食料が保管されている倉庫にてクロネは倒れており、どうやら彼女は倉庫の食材の管理を行っている時にイゾウに襲われたらしい。幸いにも気絶しているだけで命に別状はなく、彼はクロネを抱えて外へ抜け出す。
「しっかりしろ!!」
「うっ……」
クロネを背中に抱えてシノビは外へ抜け出すと、まるで店主が外へ抜け出した事を見届けたかのように建物が崩壊した。クロネを抱えたシノビは彼女を下ろすと、ここで街道に人が集まり始めている事に気付く。
「お、おい!!大変だ、黒猫酒場が……」
「クロネさんは大丈夫なのか!?」
「そこのあんた、誰だ!?」
「くっ……!!」
建物が崩壊した事で街道には人が集まり、そしてクロネを抱えているシノビは彼女を放置する事が出来ず、イゾウを追う事を断念した――
――その後、駆けつけた警備兵にクロネは保護され、シノビは事情聴取を受けた。最初はクロネを襲い、建物を崩壊させた犯人ではないかと疑われたが、すぐに彼に助けられたヒナが警備兵に説明し、シノビは解放される。
その後、クロネは自分の店を失った事に酷く落ち込んだが、今後は白猫亭でしばらくは澄ませてもらう事にした。幸いにも白猫亭の改築はもう殆ど終わりかけており、ヒナも彼女の身を案じて共に過ごす。
クノとクロは護衛役として二人の傍に居る事が気まり、改めてシノビは今回の一件をナイ達に伝えるためにアルトの屋敷に訪れていた。
「……つまり、あれかい?そのイゾウとやらはあたしの命を狙うためにヒナの奴に手を出そうとしたのかい?」
「そういう事になるな……今後は貴女の周りの人間も危険に晒されるかもしれない、親しい人間には注意をしておけ」
「くそっ……あたしが目的ならあたしの命を狙いな!!」
「テンさん、落ち着いて……」
今回の事情を知ったテンは怒り狂い、彼女が子供の頃から育てたヒナが危険に晒され、更には昔から世話になっていたクロネまで巻き込まれた事に彼女は憤る。
今すぐにでも飛び出してイゾウを見つけ出して八つ裂きにしたい心境だったが、その肝心のイゾウの居場所は掴めない。彼はこの王都では最強の暗殺者として知られ、決して無暗に姿を晒す輩ではない。
「テン、これからどうするつもりだ?」
「決まってんだろ、聖女騎士団の総力を挙げて探し出すんだ!!」
「私を襲ったのも、きっとイゾウという奴だ!!絶対に許さない!!」
少し前にルナに襲撃を仕掛けたのもイゾウであり、彼女はイゾウに嵌められて危うく犯罪者になる所だった。話を聞いてルナはイゾウの正体を知り、テンと共に探し出そうとしたが、ここでシノビが止める。
「待て……闇雲に探したところで奴は見つからないぞ」
「それじゃあ、どうしろってんだい!?」
「まずは落ち着け……焦った所で状況は変わらないぞ」
「その通りだよ。シノビ君の言う通りだ、まずは落ちく事が大事だぞ」
屋敷に戻っていたアルトもシノビの言葉に賛同し、流石に王子が相手となるとテンも強くは言い返せず、大きなため息を吐きながらも心を落ち着かせる。
「はあっ……分かったよ、確かに少しばかり取り乱してたね。だけど、実際にどうするんだい?そのイゾウとやらの居場所に心当たりはあるのかい?」
「いや……だが、これだけの大きな都市ならば情報屋がいるはずだ。そいつらを探し出して奴の居所の手掛かりだけでも掴む」
「情報屋……あっ!!」
情報屋という言葉にナイはヒイロとミイナに顔を合わせ、3人はお互いに頷き合う。その様子を見てテンは驚いた様子で尋ねた。
「何だい、あんたら……まさか、情報屋に心当たりでもあるのかい?」
「実は……ルナさんを探す時にネズミという情報屋と会ったんです。それでルナさんの居場所を見つける事が出来たんです」
「おおっ、そうだったのか!?」
ルナは情報屋を通じて自分が見つかった事を初めて知り、その一方でテンの方はネズミという話を聞いて首を傾げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます